疾患
disease

食道静脈瘤

「食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)」は、食道粘膜下を通る静脈が太く曲がりくねって、凸凹(でこぼこ)と瘤(こぶ)のようになった状態のことです。主な原因は肝硬変で、通常は食道に静脈瘤ができても自覚症状はありません。しかし、静脈瘤が大きくなって破裂すると出血を起こして、鮮血を口から吐いたり便が黒くなったりすることで気づくケースが多く、出血多量の場合には死に至る可能性もあります。
食道静脈瘤では、「上部消化管内視鏡(胃カメラ)」による検査・治療が主流となっています。内視鏡検査(胃カメラ検査)では、静脈瘤の形態や「破裂しそうかどうか」を確認して、破裂の危険性がある場合には予防的治療を行い、出血時には止血を含めた内視鏡的治療も可能です。

当院では食道静脈瘤の患者さんへ長期的なフォローを行っています。「つらくない内視鏡検査」を目指し、極細ファイバーを使用した鼻からの「経鼻内視鏡検査」や鎮痛剤・鎮静剤を用いた検査も可能です。肝硬変・食道静脈瘤がある方は定期的に内視鏡検査を受けましょう。お気軽にご相談ください。

食道静脈瘤とは?

食道静脈瘤とは、食道の静脈が広がり蛇行して、瘤状に盛り上がり肉眼的に認められる状態です。肝硬変の約7割に合併するとされ、静脈瘤が発達すると破裂して消化管内に大出血を起こす恐れがあります。昔と比べて医療管理が進歩した現在でも、静脈瘤が破裂すると約20%の方が命を落としてしまうため、破裂の危険性がある場合には予防的に治療を受ける必要があります。

食道静脈瘤の原因

食道静脈瘤の主な原因は、肝硬変などの肝臓異常による門脈圧の上昇です(門脈圧亢進)。肝硬変以外にも門脈圧亢進を起こす疾患として、特発性門脈圧亢進症、バッド・キアリ症候群、慢性すい炎、肝がん、膵がん(すいがん)などがあります。

食道静脈瘤発症の仕組み

(図)食道静脈瘤の発症の流れ

(図)食道静脈瘤イメージ

食道静脈瘤の症状

食道静脈瘤を発症しただけでは特に症状は現れません。静脈瘤が破裂するまでは、通常、静脈瘤の発症原因となっている肝硬変などの基礎疾患による症状のみとなります。

肝硬変の主な症状

疲れやすい・全身倦怠感、食欲不振、進行すると黄疸(おうだん:皮膚・白目が黄色くなる)、腹水・むくみ(お腹・手足に水が溜まる)など
一方で、食道静脈瘤ができると、硬いものを食べるなど少しの刺激で傷ついて出血しやすくなります。出血多量では死に至ることも少なくないため、静脈瘤の出血は肝硬変の三大死亡原因のひとつです。
破裂すると、次のような症状が現れます。

  • 吐血(とけつ)
    口から血を吐くこと。通常、食道・胃など上部消化管からの出血で、真っ赤で鮮やかな血液・少し赤黒い血液が黄色みを帯びた胃液と混じって吐き出されます。
  • 下血(げけつ)
    肛門から血が出ること。食道からの出血では腸を通るため、消化液によって血の色は赤色ではなく、黒い色調に変わります。血便ではなく、黒い便(タール便)となるので、注意が必要です。
  • 貧血
    静脈の破裂による過剰出血のため、急激な血圧低下・めまいが起こります(急性出血性貧血)。

食道静脈瘤の検査・診断

食道静脈瘤の発症は外から分からないため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)・X線造影検査(バリウム検査)などから、静脈瘤の状態を確認します。バリウム検査でも静脈瘤の形は分かりますが、胃カメラ検査の方が静脈瘤の形・色調などの状態を観察しやすく、「破裂しそうかどうか」まで確認できます。そのほか、CT検査・経皮経肝門脈造影検査(PTP)などを行うことがあります。
※経皮経肝門脈造影検査(PTP)に関しては、さいたま赤十字病院などの基幹病院を必要に応じてご紹介します。

当院の内視鏡には、青・緑などの短い波長の光を照射する「NBI(狭帯域光観察)システム」が導入されています。短波長の光で消化器の粘膜表層の血管を浮かび上がらせるので、血管構造をより鮮明に観察できます。
◆当院の胃カメラ検査の詳しい内容は、胃カメラ検査ページにて説明しています。

(画像)当院の内視鏡検査の様子

なお、吐血・下血・貧血の症状がある方は救急車を呼ぶなど、すみやかに医療機関を受診してください。

食道静脈瘤の治療

食道静脈瘤では出血に対する治療が重要となるため、「緊急的(出血時)治療」「予防的治療」に分けられます。また、様々な治療法がありますが、治療の中心となるのが「内視鏡的治療」です。

内視鏡的治療

内視鏡を使った治療法には、次の2つの方法があります。

  • 内視鏡的硬化療法(EIS)
    内視鏡で静脈瘤を確認しながら、注射針で静脈瘤に硬化剤を注入して、静脈瘤を固める方法です。
  • 内視鏡的静脈瘤結さつ術(EVL)
    内視鏡の先端に輪ゴムのようなもの(Oリング)を装着して、静脈瘤を縛って血流の途絶・壊死により脱落させる方法です。緊急時の止血術としても多用されています。
    硬化療法と比べて低侵襲なため、体への負担が少なく簡便で安全性に優れていますが、一方で再発が多いとされています。

その他の治療法

  • 薬物療法
    門脈圧を下げるお薬を使用することがあります。
  • 放射線治療
    レントゲンで確認しながら、食道静脈瘤の原因となる血液の流入経路を硬化剤などにより閉鎖する「経皮経肝的塞栓術(PTO)」、門脈と静脈の間にステントを挿入して、新しく血液の通り道を作って門脈圧を下げる「経皮的肝内門脈静脈シャント(TIPS)」などがあります。
  • 外科的手術
    食道の血管を縛って食道と一度切り離して、再度縫合する「食道離断術」などがあります。
  • バルーンタンポナーデ法
    鼻からバルーン(風船)の付いたチューブを挿入して、食道と胃でバルーンを膨らませて、圧迫止血する方法です。一時的緊急止血として、全身状態が不安定な場合や内視鏡治療ができない環境の際に行われます。

※内視鏡的治療・放射線治療・外科的手術に関しては、さいたま赤十字病院などの基幹病院を必要に応じてご紹介します。

食道静脈瘤の注意点

  • 食道静脈瘤と肝疾患との治療バランスが重要
    食道静脈瘤を発症した患者さんの多くが慢性肝疾患をお持ちです。食道静脈瘤への予防的治療をしすぎてしまうと、肝臓への負担が増え、肝不全などに進行することがあります。一方で、静脈瘤を放置して破裂・出血が起こると、時に失血死・吐血に伴う窒息死に陥るケースもあります。そのため、動脈瘤・肝疾患両者のバランスを保ちながら治療を行うことが大切です。
  • 定期的な内視鏡検査による経過観察が必要
    食道静脈瘤治療が成功して食道静脈瘤が消失したとしても、発生原因となっている肝臓が良くならない限り、門脈圧が上昇する状態は変わらないため、再発する可能性は残っています。そのため、定期的に内視鏡検査を受けて、経過観察をすることが大切です。また、肝疾患の進行による肝不全・肝臓がんなどにも注意が必要なので、肝臓の検査・治療を並行して行います。

まとめ

食道静脈瘤では自覚症状が現れません。口から血を吐いたり便が黒くなったりすることで、慌てて検査を受けて、初めて静脈瘤の存在に気づくケースが多いです。近年、内視鏡検査技術の向上により早期発見・治療が可能となっていますが、それでも破裂による大出血では死に至る危険性があるため、定期的な胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を受けて、破裂しそうな兆候が無いかなどを長期的にフォローする必要があります。また、破裂リスクが高ければ、予防的治療を行うことも重要です。

当院には内視鏡専門医・肝臓専門医が在籍しており、食道静脈瘤や慢性肝疾患に対して丁寧な診療を心がけています。症状や生活に対する不安・お悩みなどありましたら、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医