疾患
disease

全身エリテマトーデス

全身エリテマトーデス(SLE)とは、自身の免疫が自分の細胞を攻撃することで全身に炎症を起こす「自己免疫疾患」のひとつで、特に20歳~40歳の女性に発症が多い病気です。

主な症状は倦怠感(だるい感じ)・発熱などの全身症状、皮膚症状、関節の痛みとなりますが、人によっては腎臓・肺・中枢神経などの臓器にも広がり、様々な病気を引き起こすことがあります。今のところ、根本原因は明らかになっておらず、根治させる治療法もないため、国による「指定難病」の対象疾患*1となっています。
*1(参考)全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)|難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/53

治療では過剰な免疫を抑えるお薬を中心に使って、病気の活動性をコントロールしていきます。病気の慢性化により、QOL(生活の質)の低下や臓器病変・重篤な副作用の出現がみられてくることがあるため、長期的にしっかり管理していく必要があります。

全身エリテマトーデスとは?

アメリカの調査ではアフリカ系アメリカ人など有色人種に多くみられますが、日本では特に地域差は見られません。日本において、難病申請者(2019年)は約6万人でしたが、未申請の方や病院に通われていない方など潜在的な患者さんを含めると、現在の推定患者数は約6~12万人とされています。発症の男女比では圧倒的に女性が多く、20代~40代に発症ピークがあります。とはいえ、男性や10代~70代までの幅広い年齢層で発症する可能性もある病気です。

全身エリテマトーデスの症状

全身エリテマトーデスでは、全身の臓器に多彩な症状が現れますが、症状の組み合わせや重症度には個人差があります。また、炎症の活動性には波があり、病状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、慢性的に経過する特徴があります。

全身症状

発熱(微熱が多いが、38℃以上出るケースもある)・倦怠感・疲れやすい(疲労感)・食欲不振など、風邪の症状と思うような症状が現れます。何週間も続くことで、初めて風邪以外の病気を疑われる方が多いです。

皮膚症状

  • 蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)
    頬から鼻にかけて、少し盛り上がっている赤い発疹です。発疹がない部分との境がはっきりしており、蝶が羽を広げているような形をしている紅斑です。中には、盛り上がりのない発疹や、薄紅色の絵の具をハケで塗ったような紅斑となる場合もあります。
    ※紅斑は発症者全員に現れるわけではありません。
    なお、全身エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus)の「lupus(ループス)」とは、ラテン語で「狼」を意味する言葉で、紅斑(erythema)が狼に噛まれたような赤い発疹となることから、名づけられています。

    (図)蝶形紅斑のイメージ

  • ディスコイド疹(円板状紅斑)
    丸い円板状の赤い発疹で、顔・耳たぶ・頭・関節の後ろ側などに現れます。
    かゆみの出ない紅斑ですが、次第に硬くなって白くカサカサしたり、色が濃くなって痕になったりすることがあります。頭にできると、脱毛して治りにくいので、早めに治療したい発疹です。

このほかに、手のひら・手指・足の裏などに「しもやけ」のような発疹が現れる場合もあります。

関節症状

手指に腫れ・痛みを伴う関節炎が起こります。肘・膝などの大きな関節に関節炎がみられたり、日によって痛む場所が変わったりする移動性の関節炎となるケースもあります。
ただし、関節リウマチとは異なり、骨の破壊を伴うことはありません。

口内炎

口の中・喉の奥・頬に当たる部位・上あご側に、痛くない口内炎ができます。
ご自分では気づかずに、病院での指摘で初めて気づかれる方が多いです。

日光過敏症

海水浴・外のレジャーなどで強い紫外線に当たった後に、皮膚に赤い発疹や水ぶくれが現れ、熱を伴うことがあります。全身エリテマトーデスの先行症状として現れる場合があります。

脱毛

円形脱毛症のように一部がごっそり抜ける、全体的に抜けるなど、毛の抜け方は様々です。

臓器障害

全身の臓器に様々な病気を引き起こすことがあります。ただし、現れる症状や障害がみられる臓器の数には、個人差があります。

  • 腎臓症状
    全身エリテマトーデス患者さんの約半数が腎障害(ループス腎炎)を合併します。初期は無症状です。進行により、むくみ・高血圧・体重増加・多量の蛋白尿がみられ、腎不全になると透析療法が必要となるため、早めの治療が大事です。
  • 神経精神症状
    自己免疫が脳神経を攻撃すると、うつ・妄想・けいれん・脳血管障害などの中枢神経症状(中枢神経ループス)が現れます。特に、「この場所が分からない」「自分の名前が分からない」などの症状が現れたら、すぐに治療が必要です。
  • 血液成分の異常
    免疫の攻撃対象が白血球であればリンパ球が減少し、赤血球なら貧血・息切れ・だるさ・動悸がみられ、血小板では血が止まりにくくなります。
  • 心臓・肺の症状
    心臓の膜の炎症「心外膜炎」や、肺の胸膜の炎症「胸膜炎」を引き起こすことがあります。どちらも息を大きく吸ったときに胸が痛み、息苦しさ・高熱がみられます。肺が硬くなる「間質性肺炎」、肺から出血する「肺胞出血」などの重篤な症状が現れる場合もまれにあります。

全身エリテマトーデスの原因

全身エリテマトーデスでは「遺伝要因」と、海水浴・日光浴・スキーなどの紫外線、寒冷刺激、風邪などウイルス感染、怪我、手術、妊娠・出産、特定の薬剤(一部の心臓治療薬・結核治療薬)といった「環境要因」が複雑に絡み合って発症しています。

また、今のところ根本原因は不明ですが、免疫が自分自身の体を攻撃してしまう病気であることは明らかです。全身エリテマトーデスの患者さんのほぼ全員が血液中に「抗核抗体」と呼ばれる自己抗体(自己抗原に対する抗体)を保持しています。主にこの抗体が自分の細胞の中にある核成分に反応して「免疫複合体」を作り、全身の臓器に沈着することで病気を引き起こしていると考えられています。ほかに、免疫を司るリンパ球が直接攻撃するケースもあるとされています。

全身エリテマトーデスの検査・診断

全身エリテマトーデスでは全身に様々な症状がみられるため、複数の検査方法により症状の評価や臓器病変の有無など全身状態を確認します。
なお、全身エリテマトーデスは慢性の炎症性疾患として、心機能や腎機能の低下が起こることもあるため、定期検査による経過観察が重要となります。主な検査方法は次の通りです。

全身エリテマトーデスの検査

  • 血液検査
    自己抗体である「抗DNA抗体」「抗Sm抗体」「抗リン脂質抗体」のいずれかが陽性になります。さらに、患者さんのほとんどは、基準値以上の「抗核抗体」を持っています。
    特に、抗DNA抗体の上昇や補体価の低下(低補体血症)は、全身エリテマトーデスの悪化を示します。
  • 尿検査
    蛋白尿・血尿など腎臓の症状が現れているかを確認します。腎障害がみられる場合には、詳しい検査(腎生検など)をすることがあります。
  • 胸部X線検査(レントゲン検査)
    胸膜炎・胸水貯留・間質性肺炎などを確認するために行います。

そのほか、必要に応じて、心電図・心臓超音波検査・MRI検査などの検査を行います。
※詳しい検査が必要な場合には、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介します。

全身エリテマトーデスの診断

アメリカリウマチ学会(ACR)による分類基準(1997年)、SLICC分類基準(2012年)、ACR/EULAR新分類基準(2019年)を参考に、臨床症状・血液検査(免疫学的項目)をスコア化して、当院では総合的に診断しています。
なお、活動性についてもSLEDAI-2K (2002年改訂)、BILAG index (2006年改訂)、SLAMなどを用いて、10~28日前からの症状・検査異常をスコア化して、評価します。

全身エリテマトーデスの治療

全身エリテマトーデスの治療では、「疾患の活動性を押さえること」が重要です。お薬で症状をコントロールしながら、再燃(落ち着いていた症状が再び悪くなること)を防いで、これまでと同じような生活が行えるように進めていきます。なお、患者さんの重症度・臓器障害の広がり方・体重などによって、使用するお薬の種類や量は調節します。

  • 副腎皮質ステロイド
    治療の基本となるお薬です。過剰な免疫の活動および炎症を抑えます。通常、内服しますが、重症度が高い方では入院して3日間点滴をする場合もあります(ステロイドパルス療法)。長期使用により重い副作用がみられることがあるため、当院では効果と副作用のバランスを見ながら使用しています。なお、食欲増進の作用があるので、体重・コレステロール・血糖値・血圧などの上昇にも注意が必要です。
  • 免疫抑制剤
    免疫を抑える薬で、ステロイドを使っても効果が不十分だったり副作用が強かったりする場合や、ループス腎炎を合併した場合に使用します。世界的に使われていた免疫調整薬が2015年に日本でも承認され、皮膚症状や倦怠感などの軽減に効果が認められています。
  • 非ステロイド性抗炎症薬
    炎症を抑えるお薬で、発熱や関節炎の痛みの改善などに使用することがあります。
  • 生物学的製剤
    他の治療を行っても症状の改善がみられない場合に使用します。特定の免疫物質の働きを抑える効果があり、関節・皮膚症状などの全身症状の改善やステロイドの減量効果が認められています。

その他、抗リン脂質抗体症候群を合併している方には血栓予防のための「抗凝固療法」、腎不全の方には「透析療法」といった、病状に合わせた対症療法を行います。

全身エリテマトーデスの注意点

  • ステロイド薬の使用は、副作用とうまく付き合いながら
    全身エリテマトーデスの治療には、「ステロイド薬」の使用が欠かせません。しかし、長期的なステロイド内服では副作用が起こりやすく、骨粗しょう症・糖尿病など重い副作用が起こる可能性があります。定期的に検査を行い、免疫抑制剤と併用しながら、効果が維持できる最小限のステロイド量と許容できる副作用とのバランスを取り、使用することが大事です。
    ただし、副作用を恐れて自己判断で薬の量を調節・中止すると、症状の悪化やショック状態を起こす危険がありますので、絶対にしないでください。
  • 紫外線回避と感染症対策は念入りに
    紫外線や感染症は症状悪化因子として有名です。皮膚症状の悪化を防ぐために、紫外線が強い日中(特に夏場)の外出を避けたり、少しの外出でも帽子・長袖・日傘などを使ったり、日焼け止めを塗ったりするようにしましょう。
    また、治療で免疫の働きを抑えるお薬を使用するため、健康な人では感染しないような弱い病原体に感染することがあります。マスクの着用、手洗い・うがいなどの基本的な感染予防に努めましょう。

よくあるご質問

どんな症状があれば、シェーグレン症候群を疑えば良いのでしょうか?

若い女性で「1週間以上熱が続いている」「体がだるく、疲れやすい」「複数の関節が痛い」「特徴的な皮膚症状がある」などがみられる場合には、一度ご受診されることをおすすめします。

全身エリテマトーデスとの上手な付き合い方のポイントを教えてください。
  • 医師の指示通りに服薬する
    症状コントロールの基礎となります。お薬の服用で気になることがありましたら、自己判断せずに、必ず医師にご相談ください。
  • 生活上の注意点を守る
    紫外線・感染症など症状悪化の要因は、できるだけ避けましょう。
    また、生活習慣病にも注意が必要です。
  • 身体的・精神的ストレスがかからないような生活を送る
    安定した症状を維持するには、規則正しい生活・栄養バランスの良い食事・適度な運動・十分な睡眠・ストレスを溜めない生活は欠かせません。
  • 妊娠を希望する場合には、必ず医師に相談する
    全身エリテマトーデスを患っていても妊娠・出産は可能です。しかし、治療薬の中には胎児に影響を与える薬があったり、症状が強いときの妊娠では妊娠経過が悪くなったり、病気自体の悪化に繋がったりするケースもありますので、希望される方はあらかじめ医師にご相談ください。

まとめ

全身エリテマトーデスは、一生付き合っていかなければならない病気ですが、治療薬の進歩により、昔と比べて病気のコントロールがしやすくなりました。とはいえ、病態は多種多様なので、できるだけ炎症の初期段階で抑えられるよう、生活上の注意点を守りつつ、治療することが大切です。
当院では患者さんが全身エリテマトーデスという病気を正しく理解して、病気と共存しながら、うまく付き合っていけるようなお手伝いができればと考えています。病気や生活に対する不安・悩みなど、何かお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医