主な症状である「口の渇き」「目の渇き」「関節痛」「疲れやすくて何もやる気が出ない」などの症状が強かったり長く続いたりしている場合には、一度ご受診されることをおすすめします。
シェーグレン症候群(SS)は、「自己免疫疾患」のひとつです。主な症状はドライアイ・ドライマウスといった乾燥症状ですが、疲労感・皮膚疾患・関節の痛み・内臓疾患などの全身症状が現れることもあります。スウェーデンの眼科医であるヘンリック・シェーグレン博士が、これらの症状を1933年に論文発表したことにちなんで名前が付けられました。
中年女性に多く発症し、国による「指定難病」の対象疾患となっています。今のところ、シェーグレン症候群を根治させる治療法はないため、お薬で症状を緩和・改善させる「対症療法」を長期的に行います。一般的に命に関わるような症状は少なく、病気の経過は良好ですが、病気の慢性化によるQOL(生活の質)の低下や全身性病変の出現・血液検査での数値異常がみられてくるケースもあるため、長期的にしっかり観察していくことが大切な病気です。
目次
厚生労働省の患者調査*1によると、1年間に病院を受診した患者さんは3万人程度となっていますが、潜在的な患者さんはその数倍~10倍はいると考えられており、推定患者数は約10万人とされています。
*1(参考)平成29年患者調患者調査|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/h29syobyo.pdf
また、発症のピークは50代にあり、主に40代~60代での発症が多くなっていますが、お子さんや高齢者でも発症するなど発症年齢には幅がみられます。患者さんの男女比では、1:17と圧倒的に女性の発症が多いです。さらに、関節リウマチ患者さんの約20%にシェーグレン症候群の合併がみられます。
シェーグレン症候群には、主に次のような特徴があります。
シェーグレン症候群は他の膠原病*2の合併の有無により「一次性」と「二次性」の2つの病型に分けられます。さらに、一次性では病変が及ぶ範囲によって、「腺型」と「腺外型」の2つの病変タイプに分類されます。
*2 膠原病:コラーゲンから成り立ち、細胞を支える「膠原繊維」に痛み・腫れなどの炎症性の病変がみられる病気の総称。膠原繊維は全身に存在し、特に腱・じん帯・骨などに多くみられます。
シェーグレン症候群にはさまざまな症状がある上、個人差も大きいという特徴があります。
症状は、主に「乾燥症状」と「全身症状」の2つに分けられます。
涙や唾液を作る外分泌腺に炎症が起こり、涙・唾液が出にくくなる乾燥症状が、患者さんの約45%にみられます。
シェーグレン症候群は全身性の自己免疫疾患なので、患者さんの約50%にさまざまな全身症状や臓器障害・検査値の異常・他疾患の合併などが現れます。
疲労感・記憶力低下・頭痛はよく起こりやすく、関節痛・関節炎・末梢神経障害などもみられます。なお、まれに「悪性リンパ腫(リンパのがん)」「原発性マクログロブリン血症」などの血液疾患を合併することもあります。
(図)シェーグレン症候群で現れる様々な症状
シェーグレン症候群では、自己抗体(自己抗原に対する抗体)や自己反応性リンパ球(自己抗原に反応するリンパ球)などの存在がこれまでの研究で確認されていますが、これらの自己免疫がなぜできるのかについては、現在まで明らかになっていません。
「遺伝的要因」「ウイルスなどの環境的要因」「免疫異常」「女性ホルモン要因」が複雑に関連し合って発症していると考えられています。
シェーグレン症候群では様々な症状がみられるため、複数の検査方法により症状の評価や臓器病変の有無を確認する必要があります。主な検査方法は次の通りです。
ほかにも、間質性肺炎などの合併を確認するために、X線検査(レントゲン検査)・CT検査や呼吸機能検査を行うことがあります。
厚生労働省研究班によるシェーグレン症候群の診療ガイドライン*3が作成されており、当院もそのガイドラインに則った診断基準にて評価しています。
*3(参考)シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年版 P.23|厚生労働省 自己免疫疾患に関する調査研究班
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/Sjoegren’s-syndrome/Sjoegren’s-syndrome.pdf
診断基準には生理病理組織検査・口腔検査・眼科検査・血液検査からなる4項目あり、2つ以上の項目で陽性となれば、シェーグレン症候群と診断します。
また、重症度は、全身性症状を含めた活動性から評価し、ESSPRIとESSDAIの2つの国際基準から判断します。
シェーグレン症候群の治療目的は、主に薬物療法による「症状の緩和・改善」「疾患の活動性を押さえて進行を防ぐこと」としています。
乾燥症状は命に関わる症状ではありませんが、進行すれば生活の質を著しく低下させるため、根気よく病気と付き合っていく心構えが大事です。
目の乾燥を防ぐため、点眼薬やドライアイ眼鏡を使用します。また、重症のドライアイの場合には、涙の排出口(涙点)に栓をして涙の排出を低下させる「涙点プラグ挿入術」という外科手術が行わることがあります。
※手術が必要な場合には、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介します。
液分泌を促すための内服薬や人工唾液、口腔用湿潤剤を使用します。また、唾液分泌促進効果がある漢方薬、去痰薬を使用することもあります。
そのほか、日頃から水分補給・うがいをして口の中を清潔に保つようにします。
肺・腎臓・筋肉・神経・血管などの臓器に活動性病変がみられる場合には、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を使って、活動を抑えます。関節痛・関節炎には非ステロイド性抗炎症薬の痛み止めを使いますが、重症の関節炎や痛み止めが効かないケースには少量のステロイド薬を使います。発疹にはステロイド外用薬、重症ではステロイド内服薬を検討します。
ただし、ステロイド薬の長期的服用では重い合併症が現れる問題もあるため、当院では効果と副作用のバランスを考えながら、治療を行います。
主な症状である「口の渇き」「目の渇き」「関節痛」「疲れやすくて何もやる気が出ない」などの症状が強かったり長く続いたりしている場合には、一度ご受診されることをおすすめします。
全国疫学調査(1994年)によると同一家族内に膠原病が発症する確率は約8.%、シェーグレン症候群が発症する確率は約2%と報告されています。家族に患者さんがいない人と比べると、少し高い割合ですが、何かの遺伝子が原因となって発症する「遺伝病」ではありません。
日々の生活を意識して変えてみることで、不快な日常が改善できます。
シェーグレン症候群は、長くじっくり付き合うことになる病気です。
当院では患者さんがシェーグレン症候群という病気を正しく理解して、病気と共存しながら、うまく付き合っていけるようなお手伝いができればと考えています。病気や生活に対する不安・悩みなど、何かお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。