肺がんの場合、家族的な遺伝を引き起こす遺伝子の変化は見つかっていません。
ただし、肺がんを引き起こす発がん物質の解毒に関連のある遺伝子というものが存在し、その遺伝子の働きが悪い場合や逆に働きが良すぎてしまう体質などが肺がんになりやすさに関係していると考えられています。
肺がんとは、肺に発生する悪性腫瘍のことです。
肺がんには、「肺自体にがんが発生するもの」と、「他のがんが肺に転移して発生するもの」の2つがありますが、通常「肺がん」と言うと、最初から肺にがんが発生する「原発性がん」を指します。
肺がんは女性よりも男性に多いがんであり、50歳以降急激に患者数が増加します。
早期は自覚症状が出にくく、症状がないうちに進行していくケースも多いため、定期的に健康診断などを受けて早期に異常を発見し、治療に繋げていくことが重要です。
肺は左右に一つずつあり、右肺(うはい)は上葉・中葉・下葉の3つ、左肺(さはい)は上葉と下葉の2つの部分で構成されています。右肺と左肺の間は「縦隔(じゅうかく)」と呼ばれ、心臓や気管が位置しています。肺の内部は、気管から枝分かれした気管支が木の枝のように広がっており、その末端には小さな袋が集まってブドウの房のような形状の「肺胞(はいほう)」があります。
肺は、身体に必要な酸素を取り込み、要らなくなった二酸化炭素を排出するガス交換の働きを持っています。口や鼻から取り込んだ空気は、気管を通って左右の肺に分かれた後、気管支から肺の奥にある「肺胞(はいほう)」に到達し、周りの毛細血管との間で酸素と二酸化炭素の入れ替えを行うシステムになっています。
肺がんは、何らかの原因で肺にある遺伝子が傷付いて異常な細胞を作り出し、その細胞がどんどん増殖していく疾患で、太い気管に発生する「肺門(はいもん)型」と肺の奥の方にできる「肺野(はいや)型」があります。
肺にがんが発生すると、がん細胞は周囲の組織を壊しながら増殖し始めます。このようにがん細胞が周りの組織に徐々に広がり、大きくなっていくことを「浸潤:しんじゅん)」と言います。また、がん細胞が血液やリンパ液内に侵入して流れに乗り、辿り着いた先の臓器でさらに増殖を始めることを「転移(てんい)」と言います。
肺がんは、他のがんに比べ比較的進行や転移が早いのが特徴で、リンパ節や反対側の肺、骨、脳、肝臓、副腎などへの転移するケースが多くみられます。初期のうちは自覚症状がなく、症状が出る頃にはすでに転移しているケースも多く、治療の難しいがんの一つです。
肺がんは、日本人に多いがんであり、年間12万人以上の人が新たに肺がんと診断されています。女性よりも男性に多く発症するのが特徴で、40代から徐々に患者数が増え始め、50代、60代と年齢が上がるにつれ、その数は増加していきます。
日本国内では年間7万5千人以上の方が肺がんで亡くなっており、肺がんによる死亡者数は、全てのがんの中でも第1位となっています。*1。
*1厚生労働省 令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況
肺がんは、発症部位や性質により、「小細胞がん」とそれ以外の「非小細胞がん」の2つに分類されます。非小細胞がんはさらに、「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」の3つの種類があり、それぞれ異なる特徴があります。がんは、組織型によって治療方針が大きく異なるため、さまざまな検査で正確な組織型を診断してから治療を始めていくことになります。
肺がんの最も大きな要因は喫煙であり、肺がんの7割が喫煙に関連すると言われています。
タバコの煙に含まれる約200種類の有害物質のうち、約70種類に発がん物質が入っています。そのため、喫煙者は非喫煙者に比べ、肺がんになる確率が男性4.4倍、女性2.8倍と高く、喫煙の開始時期が早い人や喫煙量の多い人ほどそのリスクは上がります。
また、患者さんご本人が非喫煙者でも、ご家族などが喫煙をされていると(受動喫煙)、発症リスクが2~3割高くなることも分かっています。
その他、喫煙以外の要因として、ラドンガス、ディーゼル粒子、アスベスト(石綿)、PM2.5といった職業や環境に起因するものがあります。また、間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患のある方も肺がんを発症しやすいことが分かっています。
肺がんの症状には、長引く咳のほか、血痰(痰に血が混じる)、嗄声(させい:声がれ)、発熱、呼吸の苦しさ、動悸、胸の痛みなどがあります。ただし、初期のうちは自覚症状が出にくいため、無症状のまま進行していくことも多いのが特徴です。
これらの症状は肺がん特有ではなく、他の呼吸器疾患でも起こることから、症状だけで肺がんの診断を行うことはできず、確定診断には画像検査や病理検査などの検査が必要になります。
肺がんの診断には以下のような検査を行います。肺がんの検査には、がんを見つけるだけでなく、組織型や病期(ステージ)を決定し、治療方針を決定するために行う検査もあります。
撮影した画像により、がんの有無や広がり、性質を調べるための検査です。
がんの有無や種類などを確定する検査で、細胞や組織を採取して顕微鏡で詳しく調べます。
生体内にある病状の変化や治療の指標となる物質(バイオマーカー)を調べる検査です。
がんの性質や治療方針、治療薬の選択の目安にします。
肺がんの進行度は、がんの大きさや広がり、リンパ節への転移や遠隔転移の有無などを基にⅠ~Ⅳまでの4段階の「ステージ(病期)」に分類します。ステージの数が多くなるほどがんが進んでいることを示し、同じ病期ではABCのアルファベット順でがんが進んでいることを現します。
さらに小細胞肺がんの場合、上記の分類と併せ、「限局型」「進展型」の二つの分類も使用します。
肺がんの治療は、「手術療法」「放射線治療」「薬物療法」の大きく3種類があります。
肺がんの治療は、がんの組織型やステージごとの標準治療があります。
実際には患者さんの身体の状態や年齢、ご本人の希望などを考慮して治療方針を決定します。
肺がんの場合、家族的な遺伝を引き起こす遺伝子の変化は見つかっていません。
ただし、肺がんを引き起こす発がん物質の解毒に関連のある遺伝子というものが存在し、その遺伝子の働きが悪い場合や逆に働きが良すぎてしまう体質などが肺がんになりやすさに関係していると考えられています。
喫煙は肺がんの最大の原因です。しかし肺がんの発症にはまだ不明な点も多く、近年、喫煙と関連がない原因不明の肺がんも増えてきています。特に腺がんでは非喫煙者の発症も良く見られますが、喫煙者に比べると進行スピードが緩やかなケースが多いことが知られています。
肺がんの発症や進行を予防するためには、特別な症状がない場合でも定期的に健康診断を受けて、早期発見・早期治療をすることが肝心です。肺がんは症状が出にくく、治療の難しいがんの一つですが、早期に見つけることができればそれだけ治療の選択肢も広がり、根治も可能です。
多くの市町村では検診費の公費負担を行っており、自己負担を軽減する措置を行っています。
40歳を過ぎたら1年に1度は肺がん検診を受けるようにしましょう。
また、当院では、肺がん検診で精密検査が必要になった方の2次検査もお受けしております。
受診にはご予約が必要ですが、初診時に紹介状をお持ちいただく必要はなく、受診当日もしくは数日中に検査を受けていただくことが可能です。(※ご予約状況により異なります)
検査は平日だけでなく、土曜日も行っておりますので、お忙しい方でもご自身のスケジュールに合わせて気軽に受けていただけるようになっています。
検診で「再検査」と言われると、どうしても不安になってしまいますが、精密検査で必ずしも肺がんが見つかるという訳ではありませんので心配し過ぎることはありません。ご自身の身体の状態を確認して安心するためにも、放置せずに早めに検査を受けていただくことをおすすめします。