疾患
disease

肝細胞がんは、肝臓の細胞から発生した「がん」であり、一般的に「肝がん(肝臓がん)」とは「肝細胞がん」のことを意味します。
「肝臓は沈黙の臓器」という異名がある通り、肝細胞がんになっても、病状が進行するまでは自覚症状のない場合がほとんどです。そのため、健康診断・人間ドックや他の病気のための超音波検査(エコー検査)などで発見されることも少なくありません。
肝細胞がんの発症の背景には「慢性肝炎・肝硬変(かんこうへん)」があります。肝細胞の破壊・再生が繰り返される過程で、遺伝子の突然変異が起こることがあり、「がん化」します。

当院では、慢性肝炎を含む様々な肝障害に対して丁寧な診療を心がけ、「肝細胞がん」の早期発見を目指し、適切な治療に繋げられるよう努めています。また、肝細胞がんの治療後の定期的なフォローアップも行っています。
肝臓に関して、気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。

肝細胞がんとは?

肝がんの分類

肝臓にできる「がん」には、大きく分けて2種類があります。

  • 原発性肝がん
    肝臓から発生する「がん」で、肝細胞から発生する「肝細胞がん」が約95%を占めることから、一般的に「肝がん」と言うと「肝細胞がん」を表しています。なお、残り約5%は肝臓の中を通る胆管から発生する「肝内胆管がん」です。治療法が異なるため、区別されています。
  • 転移性肝がん
    ほかの臓器にできた「悪性腫瘍」が肝臓に転移してできた「がん」です。
(図)肝臓・胆管・胆のう

肝細胞がんの疫学

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」*1によると、2019年の肝がんの新規患者数は約3.7万人(男性:25,339人、女性:11,957人)で、女性と比べて、男性の発症が約2倍と報告されています。また、男性では40代後半から80代での発症が多く、男性の罹患が多い「がん」の部位としては、前立腺、大腸、胃、肺に次いで、肝臓は5番目です。

*1(参考)がん登録・統計|国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

肝細胞がんの原因

肝細胞がんの発症の背景には「慢性肝炎」の存在があります。肝臓は再生力が高いため、炎症などにより肝細胞がある程度破壊されても、再生可能です。しかし、慢性肝炎により長期的に肝細胞の破壊と再生が繰り返されると、再生が間に合わず、次第に肝臓が硬くなる「肝硬変」を発症します。その過程で遺伝子の突然変異が積み重なり、「肝細胞がん」が発生します。

なお、慢性肝炎の要因の約90%は「ウイルス性肝炎」であり、特に「C型肝炎」からの発生がこれまで大多数を占めていました。しかし、近年では抗ウイルス治療の普及や医療環境の整備・向上によって新規感染が減少していることから、同様にウイルス性肝炎からの肝細胞がんの発生も減少傾向にあります。一方で、生活習慣病に合併しやすい「非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)」を原因とする肝細胞がんが増加しています。
そのほかの要因には、過剰なアルコール摂取、喫煙、肥満、糖尿病などがあります。

◆ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪性肝障害は、それぞれ「ウイルス性肝炎ページ」「脂肪肝ページ」にて詳しく説明しています。

(図)肝障害の過程

肝細胞がんの症状

「肝細胞がん」の初期では自覚症状がないケースが多く、病状が進まないと症状は現れません。しかし、肝細胞がん患者さんの多くは、がん以外にも慢性肝疾患を抱えているため、慢性肝炎や肝硬変に伴う症状がみられます。

肝硬変の主な症状

疲れやすい・全身倦怠感、食欲不振、進行すると黄疸(おうだん:皮膚・白目が黄色くなる)、腹水・むくみ(お腹・手足に水が溜まる)など

なお、肝細胞がんが進行すると、腹部のしこり・圧迫感・痛みなどの症状が現れてきます。

肝細胞がんの検査・診断

肝細胞がんの診断は、超音波(エコー)検査やCT検査・MRI検査などの「画像検査」と腫瘍マーカー検査などの「血液検査」を組み合わせて行います。画像検査で腫瘍の「良性/悪性」が判別できないケースなどについては、針で組織を採取し顕微鏡で調べる「生検」を行うことがあります。
また、治療方針を決めるために、血液検査で肝機能を調べたり、内視鏡で静脈瘤の有無や肝硬変の程度を確認したりする場合もあります。

画像検査

  • 腹部超音波検査(エコー検査)
    お腹にゼリーを塗ってから超音波プローブを当てます。被ばくの心配がない検査で、がんの大きさ・個数・広がり、肝臓の状態、腹水の有無などを確認します。ただし、がんの場所によっては検査が難しく、皮下脂肪が厚いと十分に確認できないケースもあります。
    がんの状態や部位によって、造影剤を注射してから超音波検査を行うこともあります(造影超音波検査)。
  • 腹部CT検査
    CT検査では、人体の輪切り画像を撮影してコンピュータで再構成して、がんの性質・分布・転移などを調べます。近年は、ごく小さい病変も描出可能となっています。より詳しく調べるために、造影剤を使って、タイミングをずらして何回か撮影し、血流の変化を調べる「ダイナミックCT検査」を行うこともあります。
    当院のCT装置には、最大50%のノイズ低減処理(被ばく低減再構成)ならびに患者さんの体形に合わせ撮影時に最適線量を自動調整する機能が搭載されているため、従来のCT装置と比べて、被ばく線量を約25%低減できます。撮影したCT検査画像は、遠隔読影サービスを利用した放射線専門医による画像診断を行っています。
    ◆CT検査について、「CT検査ページ」にて詳しく説明しています。

そのほか、磁気を使い、X線被ばくがない「MRI検査」にて確認する場合があります。
※MRI検査が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

血液検査

  • 腫瘍マーカー
    体内に「がん」ができると、血中成分にがん細胞が作り出す特殊な物質(腫瘍マーカー)が認められます。腫瘍マーカーは「がん」の種類によって多数あり、肝細胞がんでは「PIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)」「AFP-L3分画(AFPレクチン分画)」「AFP(アルファ・フェトプロテイン)」があります。
  • 肝機能検査
    肝機能障害が起こると、AST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GT(γ-GTP)など肝臓で働く酵素が血中に流れ出てきます。

肝細胞がんの治療

肝細胞がんの治療法は、がんの進行の程度「病期(ステージ)」や肝機能の状況(肝予備能:残された肝機能がどの程度かを表す指標)から検討します。
※当院では、主に肝細胞がん治療後の経過観察・定期的な検査などのフォローアップを行っています。必要に応じて、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介し、スムーズに治療が進められるよう努めています。

肝細胞がんの病期(ステージ)

病期は、主に「がん」の大きさ・個数、肝臓内の血管への広がり、ほかの臓器まで転移しているかなどによって、Ⅰ期~Ⅳ期までの4つに分類され、数字が大きいほど「がん」が進行していることを意味します。
分類法にはいくつかあり、日本の「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約(日本肝癌研究会編)」もしくは国際的評価の「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」がよく用いられます。ただし、分類法によって、同じステージでも内容が異なる部分もあるため、注意が必要です。

肝細胞がんの治療法

肝細胞がんには複数の治療法があり、いずれの治療においても全身状態を良好に保つことが大切となります。その中心となるのが、「外科的手術」「穿刺局所療法(せんしきょくしょりょうほう)」「肝動脈カテーテル療法」の3つです。

外科的手術

  • 切除術
    根治治療であり、肝細胞がんの標準治療です。主に他の臓器への転移がなく、「がん」が3個以内で、肝予備能が比較的良好な場合には、がん・周囲の肝臓組織を取り除く「肝切除」を行います。通常、1~2週間程度の入院で行われます。
  • 肝移植
    肝硬変が進行し、肝機能の低下がみられる場合には、肝移植を検討することがあります。日本では健康な人(近親者が多い)から肝臓の一部を貰う「生体肝移植」が行われています。

穿刺局所療法

  • ラジオ波焼灼療法(ラジオはしょうしゃくりょうほう)
    超音波やCTの画像を見ながら、体の外から「がん」に直接電極針を刺して通電させ、がんを焼いて死滅させる治療法です。焼灼時間は約10~20分です。手術と比べて、体への負担が少なく済むメリットがあります。

肝動脈カテーテル療法

  • 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
    足の付け根からカテーテル(細い管)を入れて肝動脈まで進め、抗がん剤と血管を塞ぐ物質を注入して、肝動脈から肝細胞がんに流れる血流を止め、がん細胞を死滅させる方法です。「がん」が多発して、手術や穿刺局所法が難しい場合などに行います。
  • 肝動注脈化学療法
    抗がん剤のみを注入する方法で、「がん」の状態・肝機能によって行うことがあります。

薬物療法

手術で切除できないが、肝予備能が保たれている進行性の肝細胞がんが対象となります。現在は、進行肝細胞がんの初回治療として、免疫療法と分子標的薬の併用療法が使用されています。

  • 分子標的薬
    がん細胞の増殖やがんを攻撃する免疫に関するタンパク質、栄養を供給するための血管などを標的にする薬です。内服薬・点滴薬などがあり、がん細胞以外の正常細胞への影響が少ない特徴があります。
  • 免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)
    免疫の「がん細胞」攻撃にブレーキがかかるのを防ぐ薬です。免疫の中心的な役割である白血球の「T細胞」はがん細胞を攻撃する性質を持っており、T細胞表面には「異物を攻撃するな」という命令を受けるためのアンテナ(免疫チェックポイント分子)がありますが、このアンテナにがん細胞が結合すると、がん細胞への攻撃にブレーキがかかり、排除されなくなります。免疫チェックポイント阻害薬では、こうしたT細胞・がん細胞のアンテナに作用して、「がん」への攻撃力を保ちます。

放射線治療

「がん」がある場所のみ、ピンポイントで高線量の放射線を照射する治療法で、主に転移するなどして症状がある場合の緩和的治療を目的に行われます。

よくあるご質問

肝細胞がんは、再発しますか?

肝細胞がんは再発しやすい特徴があります。根治治療である肝切除を行っても、5年後の再発率は約80%にのぼると報告されており、肝切除後の再発のうち、約90%は肝臓内での再発です。肝細胞がんの早期発見・早期治療に繋げるために、通常3か月おきに腫瘍マーカーなどの血液検査・超音波検査を行い、6か月おきにCT検査などの画像検査を行うことが推奨されています。また、肝機能を維持して再発を抑えるために、肝庇護療法(肝機能を正常化させる目的の治療)や肝炎ウイルスの感染があれば「抗ウイルス療法」を行います。

肝細胞がんの治療中・治療後において、日常生活の注意点は何ですか?

注意点は患者さんの体調・肝機能の状態によりますが、大切なのは「肝機能をできるだけ維持すること」です。規則正しい生活を心がけ、次のような点に注意すると、良いでしょう。


  • 禁煙
  • タンパク質・ビタミン・ミネラルを含んだ、栄養バランスのよい食事
  • 適度な運動
  • ストレスの発散
  • 感染症予防(うがい・手洗い・マスクの着用など)

まとめ

肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変による肝臓の破壊・再生過程で発生します。治療においては、いくつか選択肢がありますが、どの治療法においても全身状態を良好に保つことが重要です。適切な治療によって、肝細胞がんは根治が期待できる一方で、再発しやすい側面もあります。がんの早期発見・早期治療に繋げるためには、日頃から定期的な検査や経過観察が大切となります。

当院では、従来装置と比べて、被ばく線量を約25%抑えられるCT装置の導入ならびに、院長をはじめとする肝臓専門医が複数在籍しているので、様々な肝疾患に対し、丁寧な診療を行っています。肝臓に関して、気になることがある方はお気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医