疾患
disease

間質性肺炎とは、肺の中にある「間質(かんしつ)」という部分を中心に炎症を起こす病気の総称です。ひと言で「肺炎」と言っても、風邪などをこじらせて発症する一般的な肺炎とは全く異なる病気で、肺の壁が徐々に硬くなって酸素が取り込みにくくなり、咳や息苦しさといった症状を引き起こすのが特徴です。

間質性肺炎にはたくさんの病型(原因や症状による分類)があります。発症原因が分かっているものもありますが、その多くは原因がよく分かっていません。このように原因が特定できない間質性肺炎は、「特発性間質性肺炎(IIPs)」と呼ばれ、国の難病指定を受けています。

間質性肺炎とは

肺は、空気に含まれる酸素を血液中に取り込み、不要な二酸化炭素を身体の外に排出する「ガス交換」の働きをしています。
口や鼻から取り込んだ空気は、気管支の先端にある「肺胞(はいほう)*1」という部分に運ばれ、肺胞の周りを流れる毛細血管との間で酸素と二酸化炭素の入れ替えを行っています。
*1 肺胞:肺の中の気管支の末端にあり、ブドウの房状の小さな袋がたくさん集まってできている組織。

一般的な肺炎は、この肺胞や気管支にウイルスまたは細菌が感染・増殖して起こるものであり、喉の痛みや咳、痰、鼻水といった風邪症状に加え、38度以上の高熱や呼吸困難、胸の痛みなどを伴うのが特徴です。
一方、間質性肺炎は、何らかの原因で肺胞と気道以外の組織である「間質」という部分に炎症や損傷が起こるものであり、肺胞と毛細血管の間の壁(肺胞壁)が厚く・硬くなり(線維化)、肺胞の形自体もいびつに変形します。
進行するにつれ、肺全体が硬くなって十分に膨らまなくなるため、肺活量が低下し、酸素の吸収効率も悪くなり、咳き込みや呼吸が苦しいといった症状が起こります。

(図)肺の構造と間質性肺炎

間質性肺炎の分類

間質性肺炎には原因や症状の特徴によってさまざまな病型があります。
原因が明らかになっているものには、関節リウマチなどの膠原病によって起こる「膠原病肺」や、薬やサプリメントによって起こる「薬剤性肺障害」、何らかの粉塵などを吸入して起こる「塵肺(じんぱい)」や「過敏性肺炎」などがあります。しかし、間質性肺炎の中には詳しい調査をしても原因が特定できないタイプのものも多く、原因の分からない間質性肺炎を総称して「特発性間質性肺炎(IIPs)」と呼んでいます。

IIPsは、急速に進行する劇症型から、何年もほとんど変化しないものまで幅広い病態があり、現在の最新である国際分類上では9つの病型に分けられています*2
IIPsの中で最も発症数の多い「特発性肺線維症(IPF)」は、ゆっくり進行するタイプの慢性間質性肺炎ですが、治療法が他の病型と異なり、予後が悪くなるケースも多いため、正確な判別を行うことが重要になります。
IPFの発症率は10万人に2.23人、有病率は10万人に10人と言われていますが、症状がなく医療機関を受診していない方を含めると、さらに増える可能性があります。
IPFを発症する患者さんの多くは50歳以上の男性で、喫煙者が多いことから、タバコは直接的な発症原因ではないものの、症状を進行させる大きな危険因子であると考えられています。
*2厚生労働省の特定疾患の診断基準では、2002年に改訂された8病型が使われています。

間質性肺炎の症状

間質性肺炎のおもな症状は「咳(咳嗽:がいそう)」と「息切れ(呼吸困難)」です。
発症すると、痰の絡まない空咳(乾性咳嗽)が季節や時間帯に関係なく続くようになります。
また、初期のうちは階段や坂道などを上った時に息が切れる程度ですが、進行すると室内の移動や着替えといった軽い動作でも息切れを起こします。患者さんによっては「チアノーゼ(血液中の酸素が不足し、皮膚が青く変色する)」などの症状が見られるようになり、最終的には肺の機能が失われて呼吸不全に陥ります。

間質性肺炎は、数日~数週間で急激に進行する急性のものもありますが、患者数の多いIPFを含め、多くの間質性肺炎はゆっくり進行するのが特徴で、発症後数年経過した頃から日常生活に支障をきたすようになるケースが多く見られます。
そのため、発症初期には無症状なことも多く、患者さんご本人が病気に気付いておらず、健康診断のX線検査やCTなどで異常が見つかり、受診することが多いのもこの病気の特徴です。
しかし、病状の進行に伴い、風邪などをきっかけに急激に病状が悪化する「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」を起こすリスクが高くなるため、できるだけ早期に発見し、進行を抑えることが重要だと考えられています。

間質性肺炎の検査・診断

間質性肺炎の診断には以下のような検査を行います。

診察・問診

症状の内容や発症時期のほか、持病の有無、服用している薬剤や健康食品、職業、ペットの飼育といった住環境などについても詳しく伺います。
間質性肺炎の場合、聴診器を当てると「パチパチ」「パリパリ」という胸の音が聞こえるのが特徴です。この音は、髪の毛をつまんで捻る音やマジックテープを剥がす音に似ていることから、「捻髪音(ねんぱつおん)」または「ベルクロラ音」と呼ばれています。

また、患者さんによっては、手足の指先が太鼓の「ばち」のように丸く膨らむ「ばち指」の状態が認められることもあります。ばち指は、心臓や肺に疾患のある患者さんに多く見られる症状で、指先の血流がうっ滞し、局所的に栄養状態が良くなって組織が増殖・肥厚するもので、太鼓の「ばち」のように見えることからこの名前が付けられています。

胸部画像検査(X線、CT)

画像検査では、肺の縮み具合や病変の広がりなどを調べます。
初期の間質性肺炎では、X線検査で肺の下部または全体が白っぽく映る「すりガラス様陰影」が認められます。また、線維化が進むと、肺が硬く縮み蜂の巣のように見える「蜂巣肺(ほうそうはい)」がCTの画像で確認できるようになり、病型の分類や重症度などの判定を行うことが可能です。

呼吸機能検査

肺活量(吸い込んで吐き出す空気の量)を測定し、肺の膨らみ方や酸素の吸収能力を調べる検査で、重症度の判定の目安となります。

血液検査

採血を行い、炎症の強さや肺組織の状態を調べます。
炎症の具合を調べる一般的な血液検査に加え、「SP-A」「SP-D」「KL-6」といった項目の検査も行い、肺組織がどの程度破壊されているかを調べることで、間質性肺炎の勢いや治療効果の判定などを行うことが可能です。

気管支鏡検査(※必要な場合)

気管支に内視鏡を入れ、肺の炎症の状態や炎症に関わる細胞の種類、線維化の程度などを調べる検査です。気管支鏡検査には、生理食塩水で肺の一部を洗い、回収した液に含まれる細胞から病型の診断を行う「気管支肺胞洗浄(BAL)」と、肺の一部を数ミリ採取する「経気管支肺生検(TBLB)」があります。

外科的肺生検(※必要な場合)

外科手術で肺の一部を数センチ採取して詳しい病理診断を行います。
気管支鏡検査で正確な病型の診断ができなかった場合で、治療の必要性が高いと判断する場合などに検討します。難病認定を受ける際の確定診断には外科的肺生検が必要になります。(一部例外あり)

間質性肺炎の治療

間質性肺炎の治療には以下のようなものがあります。

薬物療法

  • 原因が明らかな間質性肺炎(塵肺や過敏性肺炎、薬剤性肺障害など)
    薬剤やその他のアレルゲンなど原因となる物質を回避することで症状が改善する場合があります。
    また、併せて炎症を抑えるための「副腎皮質ステロイド」による治療を行います。
    膠原病が原因で起こる膠原病肺の場合にも、ステロイドや免疫抑制剤の効果が期待できます。
    その他、咳症状がつらい時には鎮咳薬(咳止め)などの処方を行うこともあります。
  • 原因の特定できない特発性間質性肺炎(IIPs)
    それぞれの病型によって治療法が異なります。
    • 特発性肺線維症(IPF)
      IPFにはステロイド薬が無効なため、治療薬の第一選択として抗線維化薬である「ピルフェニドン(ピレスパ®)」「ニンテダニブ(オフェブ®)」を使用します。ただし、これらの薬は病気自体を治すものではなく、あくまでも病気の進行を抑えることが目的になります。また、長期の服用が必要な上、薬剤の費用が非常に高額であり、副作用が多いことなどから、症状が落ち着いている場合には治療を行わずに経過観察を行う場合もあります。
      その他、咳症状がつらい時には鎮咳薬(咳止め)などの処方を行うこともあります。
    • IPF以外の特発性間質性肺炎
      病型に応じ、抗炎症剤(ステロイドや免疫抑制剤)もしくは抗線維化剤、場合によっては両方を併用することもあります。
      その他、咳症状がつらい時には鎮咳薬(咳止め)などの処方を行うこともあります。

在宅酸素療法

血液中の酸素が不足して呼吸不全になり、日常生活に支障をきたす場合には、息苦しさを和らげるための「酸素療法」を行います。酸素療法とは、自宅に設置した酸素濃縮器または液体酸素のタンクを使用し、鼻から酸素を吸入する治療で、外出時に携行できる小型のタンクもあります。

その他

肺の病変の影響で心臓への負担が増加しているような場合には併せてそれらの治療が必要になります。また、年齢の若い患者さんで、上記のような治療を行っても効果がなく、一定の厳しい基準を満たす場合には肺移植を検討する場合があります。

日常生活の注意

間質性肺炎は、ちょっとした体調の崩れをきっかけに急性増悪を起こし、命に関わることがあります。薬物療法と併行し、日頃から以下のようなことに気を付けましょう。

禁煙

喫煙は間質性肺炎を進行させるほか、肺がんを合併する大きな要因にもなります。
タバコは「百害あって一利なし」ですので、今すぐに禁煙をしましょう。受動喫煙であっても同様にリスクがありますので、ご家族や周囲の方にも禁煙をお願いしましょう。

感染予防

バランスの良い食事や十分な睡眠をとり、体調を崩さないように気を付けましょう。
感染症の予防には、マスクの着用や手洗い、アルコールによる手指の消毒などが基本です。
また、特に冬場などは人込みをできるだけ避けることや、乾燥に気を付けて部屋の加湿を行うことなどを心掛けましょう。
また、医師に相談し、肺炎球菌やインフルエンザなどの予防接種も受けておくようにしましょう。

適正体重を保つ

太り過ぎも痩せすぎも病気の進行に影響を与えます。
食べ過ぎて体重が増加すると、呼吸困難が悪化する可能性があります。
また、病気の進行につれ体重が減少してくると、経過が悪くなるため、しっかり食事を摂り、体重を維持するようにすることが大切です。

よくある質問

間質性肺炎になったら必ず治療が必要ですか?

間質性肺炎には、急性のものから慢性のものまで多様な病型があり、特別な治療をしなくても何年も病状が進まないようなケースもあります。
また、治療薬が非常に高額になる上、副作用の問題などもあるため、軽症の場合には治療は行わずに様子を見ることもあります。
それぞれの患者さんの治療方針は、検査結果に基づき、病気の進行度や年齢、体力、他の臓器の状態、副作用の有無などを総合的に考慮して総合的に判断します。

特発性間質性肺炎は難病に指定されているので公費での治療が認められますか?

原因の特定できない特発性間質性肺炎(IIPs)は国の指定難病になっています。
検査結果が一定の基準を満たしている場合、申請を行って認定された場合には公費による医療費補助を受けることが可能です。ただし、患者さんの重症度や、かかった医療費の額などによっては認定を受けられない場合もあります。詳しくはお住いの地域の保健所にお問い合わせください。

間質性肺炎はどのような経過をとりますか?

治療をしなくてもほとんど進行しないものやステロイド薬が良く効くタイプもあり、病気の経過は、病型によって異なります。慢性進行型であるIPFは、徐々に線維化が進行し、平均生存期間は欧米では確定診断から28~52か月、日本では61~69か月と言われていますが、患者さんによって経過はそれぞれ異なります。

まとめ

間質性肺炎は、一度線維化が進んでしまうと改善が難しくなるため、早期発見が重要です。
咳や呼吸困難などの症状がある時や、検査などで肺に異常が見つかった時には放置せず、早期に詳しい検査を受けるようにしましょう。
また、間質性肺炎の診断を受けた時には、急性増悪を起こすリスクを考え、無症状であっても定期的に検査を受けることが大切です。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医