患者さんご自身で、IgG4関連疾患を疑って受診することは難しいでしょう。 ただ、涙腺・唾液腺・甲状腺など体表面が腫れている場合には、放置せずに医療機関を受診しましょう。また、健康診断・人間ドックなどで定期的に血液検査・画像検査を行うことが、IgG4関連疾患を含め多くの病気に対する早期発見に繋がります。
IgG4関連疾患は、「IgG4」と呼ばれる抗体成分の増加および臓器への特徴的な細胞の浸潤がみられる病気をまとめたもので、主にすい臓・唾液腺・涙腺・腎臓など全身の臓器に腫れ・硬化・結節が現れます。IgG4関連疾患とは21世紀に入ってから提唱された新しい病気であり、はっきりした原因は分かっておらず、国による「指定難病」の対象疾患となっています。
現状、IgG4関連疾患を根治させる治療法はありませんが、症状の軽減・改善にステロイド治療が有効です。IgG4関連疾患の生命予後は良好ですが、ステロイド内服を中止・減量すると、50%程度の方に再燃傾向があるため、症状が良くなっても経過観察を続け、医師による定期的な評価を受けましょう。
当院では、IgG4患者さんの長期的なフォローを行っております。お気軽にご相談ください。
IgG4関連疾患は、21世紀に日本から生まれた新しい疾患概念です。「IgG4」とは免疫グロブリンG(IgG)の抗体成分のひとつです。2001年に自己免疫性すい炎患者さんの血液からIgG4成分の増加が発見されたことをきっかけに、様々な病気でIgG4測定が行われるようになりました。その結果、自己免疫性すい炎以外にも「IgG4の上昇」「IgG4を作る形質細胞が臓器に浸潤する(染みて広がる)」という特徴を持った病気があることが分かり、まとめて「IgG4関連疾患」と呼ばれるようになりました。
IgG4関連疾患のうち、継続的な患者数調査が行われている「自己免疫性すい炎」を見てみると、2002年に約900人(人口10万人あたり0.82人)でしたが、診断能の向上や疾患自体が少しずつ知られてきたことにより、2016年では約13,400人(10万人あたり10.1人)と大幅に増加しています。IgG4関連疾患全体の患者数は、2009年に約1Z~2万人と推定されていますが、自己免疫性すい炎と同様に増加していると予想されるため、現在全国調査が行われています。なお、IgG4関連疾患全体をみると、高齢男性の発症がやや多いですが、涙腺・唾液腺炎の発症では男女差はありません。
IgG4関連疾患と考えられている疾患には、次のようなものがあります。
(図)IgG4関連疾患に含まれる疾患
IgG4関連疾患では侵される臓器によって、現れる症状が異なるため、全ての患者さんに共通する症状はありません。臓器ごとの主な症状は以下の通りです。
IgG4関連疾患では、現状はっきりした原因は分かっていません。
しかし、これまでの研究の中で「自己抗体の存在」「血中IgG4高値」「侵された臓器にIgG4を産生する細胞が多く浸潤している」「ステロイドが有効」「喘息・アトピー性皮膚炎の合併率が高い」という特徴が判明しており、今のところIgG4関連疾患は「自己免疫性疾患」または「アレルギー性・炎症性疾患」と考えられています。
IgG4関連疾患では様々な症状がみられるため、複数の検査方法により症状の評価や臓器病変の有無を確認し、似ている病気との鑑別が必要です。また、診断基準に則り、総合的に評価します。
IgG4関連疾患は、2011年に作成された厚生労働省研究班によるIgG4関連疾患の診療ガイドライン*1や、臓器別診断基準に則り、症状・血液検査・画像検査などから総合的に診断します。
IgG4関連疾患の診断基準(包括的診断基準)として、次のようなものがあります。
*1(参考)2020改訂 IgG4関連疾患包括診断基準|日本IgG4関連疾患学会
https://igg4.w3.kanazawa-u.ac.jp/reference/
上記の基準の①~③すべて満たす場合を「確定診断群」、①と③を満たすと「準診断群」、①と②を満たすと「疑診群」と分類されます。なお、重症度は、ステロイド依存性や抵抗性から評価します。
また、「自己免疫性すい炎」「IgG4関連硬化性胆管炎」「IgG4関連涙腺・眼窩及び唾液腺病変」「IgG4関連腎臓病」の4つの疾患に対しては、臓器別診断基準*2が提唱されています。
*2(参考)IgG4関連疾患臓器別診断基準|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000101015.pdf
IgG4関連疾患治療の基本は、「副腎皮質ステロイド内服」です。多くの患者さんで有効であり、治療開始後2~4週間で症状の改善が期待できます。通常、中~高用量の内服からスタートし、少しずつ減らし、低用量の服用を維持する方法(維持療法)を1~3年程度行います。
ただし、ステロイド薬の長期的服用では重い合併症が現れる可能性や、副作用予防として胃薬・骨粗しょう・感染症対策のお薬を併用する必要もあるため、当院では効果と副作用のバランスを考えながら、治療を行っております。また、ステロイド治療を行っても効果が不十分なケース、副作用の影響でステロイド服用が難しいケースでは「免疫抑制剤」の使用や併用することがあります。なお、治療への反応が悪い場合には、悪性腫瘍などを疑って再検査を行うケースもあります。
IgG4関連疾患は命に関わる病気ではありませんが、そうでない人と比べて悪性腫瘍リスクが高くなるとした調査結果があります。通常、病気の経過は良好ですが、お薬の減量・中止によって再燃する方も多いため、根気よく病気と付き合っていきましょう。
IgG4関連疾患の第一選択薬は「ステロイド治療」です。IgG4関連疾患の多くに有効ですが、ステロイド薬を長期内服すると、骨粗しょう症・糖尿病・高血圧・食欲亢進・肥満・白内障・緑内障などの様々な副作用が起こる可能性があります。定期的に検査を行い、健康チェックを受け続けることが大事です。
また、少しでも気になる症状がみられたら、早めに受診するようにしましょう。
IgG4関連疾患は新しい疾患概念であり、原因不明でもあるので、病気に対する生活環境の影響については、あまり分かっていません。しかし、現在までに明らかになっている特徴から、「自己免疫性疾患」であると推察されるため、他の自己免疫疾患同様にアルコールの多飲・喫煙・ストレス・不眠を避けた「規則正しい生活」が大切です。
また、ステロイド治療によって感染症にかかりやすくなる副作用もあるため、治療中はうがい・手洗い・人込みを避けるなどの感染対策を取りましょう。
患者さんご自身で、IgG4関連疾患を疑って受診することは難しいでしょう。 ただ、涙腺・唾液腺・甲状腺など体表面が腫れている場合には、放置せずに医療機関を受診しましょう。また、健康診断・人間ドックなどで定期的に血液検査・画像検査を行うことが、IgG4関連疾患を含め多くの病気に対する早期発見に繋がります。
これまでのところ、何かの遺伝子が原因となって発症する「遺伝病」ではありません。
ただし、免疫に関する遺伝子が発症に関与している可能性はあります。そうした遺伝素因と環境因子が複雑に絡んで、発症すると考えられています。
IgG4関連疾患は、近年、日本から提唱された新しい疾患概念です。国の指定難病に認定されているため、診断基準・重症度分類によっては、医療費助成の対象となります。
詳しい原因が判明していないため、完治は難しい状況ですが、ステロイド治療が有効であり、症状の改善が期待できます。一方でステロイド内服による様々な副作用、ステロイドの減量によって約半数の方に再燃が起こるなどの問題点もあります。
当院では、患者さんがIgG4関連疾患を正しく理解し、症状の改善はもちろんのこと、治療薬による副作用とうまく付き合っていけるようなお手伝いができればと考えています。
病気や生活に対する不安・悩みなど、何かお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。