疾患
disease

過敏性肺炎は、アレルギーが原因で起こる肺炎です。カビやホコリなど微小な物質(抗原:こうげん)を繰り返し吸い込むことによって発症し、咳や息切れ、高熱などの症状を伴うのが特徴です。

アレルギーの原因になる抗原の数は100~200種類にも及ぶと言われ、自宅や職場などで日常的に接しているものが抗原になっている場合も少なくありません。
通常、それらの物質を避けることで症状は軽快しますが、長期に渡って抗原にさらされてしまうと炎症が慢性化して肺が硬くなり、呼吸不全に陥ってしまうこともあるため注意が必要です。

過敏性肺炎の症状は、風邪や感染性の肺炎と非常に似ていますが、「いつも特定の場所で呼吸器症状が現れる」「毎年同じ季節に肺炎を発症する」といった特徴があります。
気になる症状がある方は放置せず、詳しい検査を受けることをおすすめします。

過敏性肺炎とは

肺は、身体の中の「ガス交換」の役割を持つ器官です。
鼻や口から取り込んだ空気は気管や気管支を通り、さらに枝分かれした細い細気管支に入ります。細気管支の先には「肺胞(はいほう)*1」という器官があり、この肺胞で酸素を取り込んで、不要になった二酸化炭素を排出するしくみになっています。
*1肺の奥にあり、細気管支から続くブドウの房のような形状をした小さな袋状の組織。

過敏性肺炎は、細菌やウイルスといった病原体に感染して発症する一般的な肺炎とは異なり、本来、病原性や毒性を持たないカビや有機物の粉塵(ふんじん)、化学物質などを何度も繰り返し吸い込むことによって起こる肺炎です。
原因となる物質(抗原)は非常に小さいため、吸い込んでしまうと、空気と一緒に肺の奥にある肺胞や細気管支に入り込みます。それを何度も繰り返していると、異物とみなした免疫機能の働きにより、肺の中には抗原に対抗するための「リンパ球」が増加します。
この免疫の働きを「感作(かんさ)*2」と言い、次に感作された抗原が入って来ると、肺が過剰に反応して肺胞や細気管支に炎症が起こります。その結果、肺胞でのガス交換に支障をきたすようになると息切れの症状が現れるほか、咳や発熱といった全身症状を伴います。
*2 抗原(アレルゲン)が体内に入ると異物とみなして排除しようとする免疫機能の働き。

これらの症状は、通常、抗原から離れると軽快しますが、自宅や職場に抗原が潜んでいることも多いため、その環境に戻ると症状も再発してしまいます。
また、長期間繰り返し抗原にさらされているうちに肺の一部が硬くなって「線維化」してしまうと、元には戻らず、たとえ周囲に抗原が無い時でも咳や呼吸困難が続くようになります。

(図)過敏性肺炎

過敏性肺炎の分類

過敏性肺炎は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎のように抗原を吸い込んだ後、すぐに症状が出る即時型アレルギーとは異なり、しばらく時間を置いてから発症するのが特徴です。
早くて数時間、遅い場合は数か月経ってから症状が出ることもあり、発症までの時間によって「急性」「亜急性」「慢性」の3つのタイプに分けられます。

  • 急性過敏性肺炎
    抗原に再度さらされた後、4~8時間程度で発熱、せき、悪寒、息切れといった症状が現れるもので、過敏性肺炎の中でも最も多いタイプです。その後、抗原との接触がなければ通常1~2日で症状が消えますが、完治するまで数週間かかることもあります。
  • 亜急性過敏性肺炎
    抗原に再度さらされた数日~数週間後に乾いた咳や息切れなどが現れます。症状が進行すると入院が必要になるほど悪化してしまうケースもあります。
  • 慢性過敏性肺炎
    数か月~数年間の間に繰り返し抗原にさらされ、炎症が慢性化してしまったもので、運動時の息切れや咳、疲労、体重減少などの症状が現れるのが特徴です。
    進行すると肺が硬くなって線維化が進み、呼吸不全を起こしやすくなります。中には急激に悪化して呼吸ができなくなり、命に関わることもあるため注意が必要です。
    その他、呼吸器疾患の患者さんに多く見られる「ばち指*3」の症状が認められることもあります。

*3 指先が太鼓のばちのように丸く膨らんだ状態。詳しい発症のメカニズムは不明だが、血管の成長を刺激するたんぱく質の量に関係していると考えられており、肺疾患に多い頻度で発症するのが特徴。

過敏性肺炎の原因

過敏性肺炎の原因となる抗原は、住んでいる住宅や飼っている動物、従事している職場といった身近なところに潜んでいることが多く、その数は100~200種類以上あると言われています。
抗原の種類ごとに、それぞれ特定の病名が付けられていますが、中には抗原の特定が難しい場合もあります。

おもな過敏性肺炎の種類

夏型過敏性肺炎(住宅関連過敏性肺炎)
高温多湿な古い家屋の押し入れや浴室、洗面所などに生息する「トリコスポロン」という真菌(カビ)が原因で起こる肺炎です。
気温の上がる夏場(4~10月)に多く発症することから「夏型過敏性肺炎」と呼ばれています。
住人がトリコスポロンを繰り返し吸い込むことによって咳や痰、発熱などの症状が現れるのが特徴で、抗原を吸入し続けていると慢性化する恐れがあります。
日本で発症する急性過敏性肺炎の75%程度は夏型過敏性肺炎と言われていますが、夏でも気温がそれほど上がらない、秋田県や岩手県より北の地域ではほとんど発症していません。

  • 農夫肺
    北海道や岩手県などの酪農家に多く、干し草の中にいる「高熱性放線菌」という細菌を吸入することによって起こる肺炎です。
  • 鳥関連過敏性肺炎(鳥飼病、羽毛布団肺)
    鳥の羽毛や排泄物に含まれるタンパク質などを吸入することによって起こる肺炎です。
    鳥飼病(とりかいびょう)は、ハトやニワトリなどの鳥類を飼っている人やその周囲で暮らす人に多い肺炎です。
    羽毛布団肺は、鳥の羽を使用する羽毛布団やダウンジャケットなどを使う人に多く、代表的な慢性過敏性肺炎として近年注目されています。
  • 換気装置肺炎(空調肺、加湿器肺)
    エアコンや加湿器の内部に発生する「アルテルナリア」「アスペルギルス」といったカビが室内に放出され、それを吸入することによって起こる肺炎です。
  • 職業性過敏性肺炎(キノコ栽培者肺、塗装工肺など
    「キノコ栽培者肺」は、キノコ栽培の従事者に多く、キノコの胞子を吸入することで起こる肺炎です。
    「塗装工肺」は、車の塗装工などに多く、ポリウレタンの原料になる「イソシアネート」という化学物質を吸入することによって起こる肺炎です。

過敏性肺炎の検査

過敏性肺炎の診断には以下のような検査・診察を行います。

  • 問診
    胸の音を確認した後、症状や住宅や職場の環境、吸入抗原などについて詳しくお伺いします。過敏性肺炎の場合、聴診器を当てると「パチパチ、バリバリ」という「捻髪音(ねんぱつおん)」がするのが特徴です。
  • 血液検査
    採血を行い、特定の原因物質(抗原)に対する抗体の有無を調べます。急性過敏性肺炎では「特異抗体*4」が陽性になりますが、慢性過敏性肺炎では抗体陽性率が低くなるのが特徴です。
    *4 ある一つの抗体はある特定の異物(抗原)のみ認識することができないようになっており、これを「特異抗体」と言う。
  • 画像検査
    胸部X線検査や胸部CT検査を行います。過敏性肺炎の方の場合、肺全体にすりガラスのような陰影が見られるのが特徴です。
  • 気管支肺胞洗浄(※必要な場合のみ)
    気管支鏡を使用し、肺の中に生理食塩水を注入した後、吸引・回収して液の成分を調べます。
  • 肺生検(※必要な場合のみ)
    CT装置で確認をしながら肺の病変の一部を採取して調べる検査です。

※その他、自宅や職場の環境に抗原が存在すると考えられる時には、一旦入院して体調を改善させた後、元の環境に戻った時に同じような症状が出るかを調べることもあります。
当院では気管支肺胞洗浄や肺生検、入院などが必要と判断した場合、さいたま赤十字病院など地域の基幹病院をご紹介いたしますのでご安心ください。

過敏性肺炎の治療

過敏性肺炎の治療には、「抗原回避」「抗原除去」「薬物療法」の3種類があります。一般的に軽症の急性過敏性肺炎の場合、抗原を避けて環境を見直すだけで症状が改善しますが、重症の急性過敏性肺炎や慢性過敏性肺炎の場合、抗原を避けても症状が進行していくことがあるため、薬物療法が必要になります。

抗原回避

急性、慢性に関わらず、症状の改善には原因となる抗原から隔離することが基本となります。症状が強い場合や自宅などの生活環境に原因がある場合には、入院して抗原の回避を行います。
軽症の急性過敏性肺炎の場合、抗原を回避して再度接触しないように対策をとると、数時間~数日で症状が改善します。

抗原除去

急性、慢性に関わらず、再発を予防するためには、抗原に再度接触することがないよう、生活や職場の環境を見直して改善することが重要です。

抗原除去の方法

  • 夏型過敏性肺炎:畳替えをする、大掃除をする、カビが生えないよう排水や換気を改善する、改善しない場合にはリフォームや引っ越しを検討する
  • 農夫肺:作業時に防塵マスク(N95)を着用する
  • 鳥関連過敏症肺炎:鳥の飼育を止める、羽毛製品の使用を控える
  • 換気装置肺炎:細菌やカビの繁殖しにくい加熱式の加湿器を使用する、フィルター交換や本体の掃除をまめに行う
  • 職業性過敏性肺炎:作業時に防塵マスク(N95)を着用する、改善しない時は転職を検討する 

薬物療法

薬物療法は、抗原回避、抗原除去のみでは症状が改善しない場合に検討します。急性過敏性肺炎と慢性過敏性肺炎で治療法が異なります。

  • 急性過敏性肺炎の場合
    軽症の場合、通常、薬物療法を行うことはありません。肺の炎症が進行し、中等症以上の場合には、炎症を抑えるためにステロイド剤の内服を行います。
    重症で呼吸困難を起こしている場合には入院し、3日程度点滴で多量のステロイド剤を投与する「ステロイドパルス療法」を行います。
  • 慢性過敏性肺炎の場合
    ステロイド剤、もしくは免疫抑制剤の内服や点滴を行います。重症で呼吸困難が改善しない場合には、専用の酸素供給機器を使用して自宅で酸素を吸入する「在宅酸素療法」も検討します。

よくある質問

気管支喘息と過敏性肺炎の見分け方は?

どちらも抗原(アレルゲン)によって引き起こされる疾患で、現れる呼吸器症状も似ていますが、気管支喘息の場合は抗原に接してすぐに症状が現れる、過敏性肺炎は抗原に接して数時間~数日後に症状が出る、という点が大きな違いです。 また、喘息の場合、発熱することはなく、「喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)」を伴うのに対して、過敏性肺炎は高い熱が出るケースがありますが、喘鳴は起こりません。

職場で粉塵に接することが多いですが、過敏性肺炎にならないか心配です……。

原因となる物質に接していても、すべての方が過敏性肺炎を発症するわけではありません。頻繁に原因物質に接しており、その物質(抗原)に過敏な体質をお持ちの方でなければ、発症することはないと考えられていますが、発症予防として防塵マスク(N95)などの使用を検討されることをおすすめします。

まとめ 

過敏性肺炎は、年齢・性別問わず、誰でも罹る可能性がある病気です。
原因となる抗原に接してから、症状が現れるまでには少なくても4時間程度、長いと数日~数か月かかるものもあるため、診断が難しいケースも少なくありません。
長引く咳の症状がある方や、毎年同じ時期に症状が出るような方は、過敏性肺炎の可能性を考え、ぜひ一度検査を受けられることをおすすめします。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医