疾患
disease

食道裂孔ヘルニア

食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が胸部に入り込んでしまい、胸とお腹の境目の「横隔膜」の「食道裂孔」といわれる穴から胃の一部が胸部に出てしまう病気です。
ただ、無症状のことも多く、健康診断などで気づくことも少なくありません。
症状がない場合には、経過観察をして、積極的な治療は行わないことも多い疾患です。

食道裂孔ヘルニアとは

口から食べた食べ物が通る通り道を食道といい、喉から胸を通過して、お腹に到達します。
この途中に食道裂孔があり、この部分を通って胃につながります。
一般的に食道裂孔は狭い穴のため、胃が出ることはありません。ただし、横隔膜は筋肉で支えられているので、加齢によって筋力が低下したり、「慢性的な咳」「妊娠」「肥満」などで腹圧が上がったりすると、この食道裂孔の部分から胃の一部が胸の方に飛び出してしまうのです。

食道裂孔ヘルニアになっても多くの方は自覚症状がないとされていますが、食べたものが胃から逆流し、「吐き気」「胃もたれ」「せき込む」などの症状が出ることもあります。
軽い食道ヘルニアでは、ほとんどが無症状ですが、症状がひどくなると食べたものが逆流する「逆流性食道炎」のような症状が出ることがあります。
また、胃の一部が食道裂孔に嵌まり込んでいる場合には、胃への血流が減少するため、痛みが出て、症状が重い場合には手術が必要となることもあります。

食道裂孔ヘルニアの原因

多くの場合は、加齢によって筋力が低下して、筋肉でできている横隔膜の食道裂孔が緩くなることが原因と考えられます。
そのほかには、「妊娠」「肥満」でお腹の圧力が高まることや、「喘息」「慢性気管支炎」などの疾患により咳が多く出ることが原因で発症することもあります。

症状

食道裂孔ヘルニアは、脱出の仕方によって「滑脱型」「傍食道型」「混合型」の3つに分けられます。
滑脱型は食道と胃の両方が横隔膜を超えて胸部に飛び出した状態をいいます。この型が最も多く、自覚症状がないことも多いですが、大きく飛び出ている場合には胃の内容物が逆流することもあります。そうすると、「胃もたれ」「胸やけ」「喉の違和感」を引き起こします。
また、大きく飛び出ていると、肺や心臓を圧迫して呼吸が苦しくなる場合もあります。

傍食道型は胃と食道はお腹の境目にあるものの、胃の一部だけが飛び出ている状態です。
この型は珍しく、自覚症状も少ないですが、飛び出した胃が食道裂孔に嵌まり込んで締め付けられると、腹痛などの症状が出ることもあります。
また、血流が低下するので、重症の場合には、出血が生じることや壊死することもあります。

混合型は、その名の通り、滑脱型と傍食道型の症状が混在する型です。

どの型も症状が軽い場合には、自覚症状がないことも多いですが「胃から酸っぱいものが上がってきた」「胸やけがする」「げっぷが増えた」「吐き気がする」などの自覚症状が出ることもあります。

検査・診断

レントゲン検査

X線検査・CT検査などの画像診断で、胃が胸側に飛び出ていないか確認していきます。
ほとんどの場合、この検査で食道裂孔ヘルニアか診断できますが、症状がある場合には、飛び出した胃や食道の状態や位置を詳しく調べるために内視鏡検査を行うこともあります。

内視鏡検査(胃カメラ)

鼻や口から内視鏡を挿入して、食道裂孔の緩みや食道や胃の状態を詳しく調べていきます。
食道裂孔ヘルニアの診断はもちろん、逆流性食道炎や胃がん、食道がんの有無も確認ができます。また、胃の内容物が逆流して炎症が起きていないかどうかも診断が可能です。

上部消化管造影検査

バリウムを飲んで、飲食物が食道や胃を通過する時の様子を確認する検査です。この時、仰向けになることで、胃からバリウムが逆流していないかをチェックすることで、逆流性食道炎の診断も行います。

治療

食道裂孔ヘルニアの多くは自覚症状が少なく、その場合には生活習慣の見直しを行います。
肥満も原因になるため、「適度な運動をする」「バランスのよい食事をする」「食度すぐに横にならない」「ベルトなどでお腹を締め付けない」などの改善を図っていきます。特に、妊婦の方はお腹を締め付けないことが大切です。

また、「胸やけがする」「げっぷが多い」などの症状に悩んでいる方は、胃酸の分泌を抑える薬を処方することもあります。
多くの方は「生活習慣の改善」「薬の服用」で症状が落ち着きますが、これらの治療で改善がみられない場合や、飛び出たヘルニアが大きい場合には手術をすることもあります。

以前は、開腹手術をして胃から出たヘルニアを元の位置に戻し、緩くなってしまった横隔膜を締めなおす手術を行っていました。最近では、5ミリ~1センチ程度の穴から腹腔鏡手術も行われるようになってきました。開腹手術よりも切開する傷が少ないため、患者さまの傷の治りや回復が早くなります。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介します。

予防

食道裂孔ヘルニアの原因は加齢による筋力の低下もありますが、「肥満」「筋力低下する生活習慣」が関係していることも少なくありません。
そのため、肥満を予防するために「バランスのよい食事を摂る」「適度な運動をする」などの生活習慣を改善することが大切です。
また、姿勢が悪く、身体に負担がかかると食道裂孔ヘルニアを引き起こしてしまうこともあるため、正しい姿勢も心がけましょう。

投薬によって、一時的に症状が改善しても、食道裂孔ヘルニアがある限り繰り返し症状が出てしまうことがあります。原因となる「肥満」や「筋力低下」を引き起こす原因となる生活習慣そのものを改善していきましょう。

逆流性食道炎と食道裂孔ヘルニアの関係について

食道裂孔ヘルニアができると、胃酸が逆流しやすくなることで「逆流性食道炎」になる可能性があり、治療が必要になる場合があります。

逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流し、食道が荒れて炎症を起こす病気です。胃の粘膜では胃酸による炎症は起きませんが、食道は酸性の胃液から粘膜を守ることができないため、粘膜がただれる「びらん」、組織や粘膜の一部がなくなる潰瘍を生じることがあります。
ただし、逆流の症状があっても、「びらん」や潰瘍がない、「非びらん性胃食道逆流症」もあります。

まとめ

食道裂孔ヘルニアは胃が横隔膜を超えて出てしまう疾患ですが、生活習慣を見直し、肥満を改善することで予防効果が期待できます。また、食道裂孔ヘルニアの原因と逆流性食道炎の原因は同じものが多く、同時に発症することも少なくありません。
これらの疾患を予防するために、正しい食生活や適度な運動を習慣にしましょう。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医