疾患
disease

胆のうがんは、肝臓と十二指腸を繋ぐ胆管の途中にある「胆嚢(たんのう)」および「胆のう管」にできた「悪性腫瘍」です。
胆のうがんは進行するまで自覚症状がほとんどありません。また、胆のうの周りには肝臓・胆管・十二指腸など重要臓器が存在するため、発見された時点で周囲の臓器にがん細胞が広がっているケースが多いことから、消化管の中で治療困難な「がん」に位置づけられています。
胆のうがんが進行すると、上腹部(特に右の背中側)の痛み・しこり、黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなる)、食欲不振・体重減少などの症状が現れてきます。

今のところ、原因は特定されていませんが、胆のうがん患者さんの約50%~75%に「胆石」の合併が認められているため、胆石の検査や人間ドックなどの健診で偶然発見されたり、胆石症の手術後に診断されたりすることも少なくありません。

当院では胆のうがん治療後の定期的なフォローアップを行っています。丁寧な診療を心がけ、「胆のうがん」の早期発見を目指し、適切な治療に繋げられるよう努めています。
お腹の痛みや食欲不振など、気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。

胆のうがんとは?

胆のうは、肝臓と十二指腸を繋ぐ胆管の途中にあり、長さ約10cm、幅約4cmの洋ナシのような形をした臓器です。肝臓で作られた胆汁(たんじゅう)を一時的に蓄えて、濃縮する役割を担っています。

(図)肝臓・胆管・胆のう

胆のうがんの疫学

胆のうがんの統計は、基本的に胆管がんと合わせ「胆道がん」として、集計されています。(肝臓から十二指腸までの胆汁の通り道を総称して「胆道」と呼びます)
国立がん研究センターがん情報サービス*1によると、2017年の「胆のうがん」の新規患者数は約8,200人(男性:約3,600人、女性:約4,600人)で、女性の発症がやや多いと報告されています。

*1(参考)胆のうがん 患者数|国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/cancer/biliary_tract/patients.html

胆のうがんの病期(ステージ)

病期は、主に「がん」の大きさ・個数、がんがどこまで進展しているか、他臓器への転移の有無などによって、Ⅰ期~Ⅳ期までの4段階で表され、数字が大きいほど「がん」が進行していることを意味します。

  • ステージⅠ
    がんが、胆のうの固有筋層*2までで留まっているもの
    *2(参考)固有筋層:胆のうの内側から、粘膜層、固有筋層、漿膜下層(しょうまくかそう)、漿膜となっている
  • ステージⅡ
    がんが漿膜下層または肝臓と接している結合組織まで浸潤している(広がっている)
  • ステージⅢ
    がんが胆のう内の漿膜まで浸潤しているか、遠隔転移(胆のうに隣接していない部位への転移)はないが周辺臓器に浸潤したもの(ⅢA)、領域リンパ節に転移しているが、遠隔転移していないもの(ⅢB)
  • ステージⅣ
    2か所以上の周辺臓器に浸潤している・大血管に浸潤しているもの(ⅣA)、胆のうに隣接していない場所に遠隔転移しているもの(ⅣB)

胆のうがんの原因

今のところ、胆のうがんの発症原因は特定されていません。しかし、発症の要因に次の3つが関連していると考えられています。

  • 胆石症
    胆のうがん患者さんの約50%~70%に、胆道内で胆汁が石のように固まり結石となる「胆石症」の合併がみられます。結石ができることで、胆のうの慢性的な炎症・胆汁成分の変化が起こり、がんが誘発されると考えられています。
    しかし、胆石があっても無症状(無症候性胆石)の場合では、発がん率は5年間で0.3%と報告されており、胆のうがんの発生は稀であると推察されています。
  • 胆のう腺腫
    胆のうにできたポリープ(突起物・隆起性病変)の大部分は良性で、がん化することはないとされています。しかし、10ミリ以上の増大傾向があったり、幅広かったりするポリープは、「腺腫」と呼ばれる腫瘍である可能性が高く、将来的に悪性化しやすいことが知られています。
  • 膵・胆管合流異常症(すい・たんかんごうりゅういじょうしょう)
    膵管と胆管の合流異常によって、膵液と胆汁が胆管内で混ざってしまう先天性の病気です。腹痛・黄疸・発熱・しこりなどの症状がありますが、無症状のことも多く、膵・胆管合流異常があると、胆のうがん発症リスクが高いとされています。

胆のうがんの症状

「胆のうがん」の初期では自覚症状がないケースが多く、病状が進まないと症状は現れません。進行した胆のうがんでは、様々な症状が現れます。

  • 腹痛(みぞおち・右わき腹)
  • 腹部のしこり・圧迫感
  • 食欲不振・体重減少・倦怠感
  • 白色便
  • 黄疸

なお、胆のうがん患者さんの約半数に「胆石」があるため、胆石症(胆のう結石)や胆のう炎に伴う症状が現れることがあります。

<胆石症の主な症状>
右の肋骨の一番下あたりの痛み(特に食後)、吐き気、食欲低下、だるさ、自覚症状のない肝機能障害など

※胆のうの出口に石が詰まると「黄疸」を引き起こしたり、胆のう内に細菌が繁殖する「胆のう炎」になると、高熱、腹痛、圧痛(押したときに痛み)が現れたりします。
少しでも気になる症状がある場合には、早めにご受診いただくと良いでしょう。

胆のうがんの検査・診断

胆のうがんの診断は、超音波(エコー)検査やCT検査・MRI検査などの「画像検査」と腫瘍マーカー検査などの「血液検査」を組み合わせて行います。画像検査で腫瘍の良性・悪性が判別できないケースについては、針で組織を採取し顕微鏡で調べる「生検」を行うことがあります。

画像検査

  • 腹部超音波検査(エコー検査)
    第一に行われる検査であり、お腹にゼリーを塗ってから超音波プローブを当てます。被ばくの心配がなく、がんの大きさ・個数・広がり、肝臓の状態、胆管の拡張がないかなどを確認します。
    がんの状態や部位によって、造影剤を注射してから超音波検査を行うこと(造影超音波検査)もあります。
  • 腹部CT検査
    CT検査では、がんの性質・周囲への広がり(浸潤)・リンパ節や他の臓器への転移などを調べます。より詳しく調べるために、造影剤を使うことがあります。
    当院のCT装置には、最大50%のノイズ低減処理や患者さんの体形に合わせた最適線量の自動調整機能が搭載されています。従来のCT装置と比べて、被ばく線量を約25%低減でき、撮影したCT検査画像は、遠隔読影サービスを利用した放射線専門医による画像診断を行っています。
    CT検査について、「CT検査ページ」にて詳しく説明しています。

そのほか、磁気を使ってX線被ばくがない「MRI検査」や、MRIの技術を使って胆のうの状態を調べる「MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)」検査を行う場合があります。
※MRI検査やMRCP検査が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

血液検査

  • 腫瘍マーカー
    体内に「がん」ができると、血中成分にがん細胞が作り出す特殊な物質(腫瘍マーカー)が認められます。腫瘍マーカーは「がん」の種類によって多数あり、胆のうがんでは「CA19-9」「CEA」があります。
  • 胆道系酵素および肝機能検査
    胆のうに異常を来すと、血中のビリルビン(胆汁の色素)や胆道・肝機能の指標であるALT(GPT)・γ-GT(γ-GTP)などの値が上がります。

胆のうがんの治療

胆のうがんの治療は、がんの広がりや全身状態など、がんの進行の程度「病期(ステージ)」から検討しますが、主な治療法として「外科的手術」「薬物療法(抗がん剤治療)」「放射線治療」があります。
※当院では、主に胆のうがん治療後の経過観察・定期的な検査などのフォローアップを行っています。必要に応じて、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介し、スムーズに治療が進められるよう努めています。

外科的手術

胆のうがん治療の基本であり、がんを完全に治すことが期待できる「根治治療」です。
ステージⅠの初期の胆のうがんでは、「胆のう摘出手術」により、ほぼ完治が期待できます。なお、胆のうがんでは、原則「腹腔鏡下手術」ではなく、開腹手術で行います。
一方、ステージⅡ以上になると、がんは胆のう周囲に広がっているので、がんを取り切るためには、肝臓や胆管・十二指腸・大腸などの周辺臓器も一緒に切除する必要があり、再発リスクおよび手術の難易度が高くなります。肝切除とリンパ節郭清*3(りんぱせつかくせい)を基本としますが、病変の広がりによって、胆管切除胆道再建など追加の手術が必要になるケースもあります。

*3リンパ節郭清:再発防止目的で、がん周辺のリンパ節も一緒に摘出すること。がん細胞はリンパ節を通って、全身に広がっていく性質があります。

補助療法(薬物療法・放射線治療)

現在、胆のうがんに対する補助療法の有効性は臨床研究中であり、はっきりと示した研究はありません。

  • 薬物療法(抗がん剤治療)
    外科的手術の補助療法として、抗がん剤で「がん」をできるだけ小さくするため、術前・術中・術後に薬物療法を行うことがあります。ほかに、遠隔転移や全身状態によって手術適応にはならない「進行がん」、転移がなくても再発の可能性が高いとき、再発したときなどに行うことがあります。
    ただし、抗がん剤はがんの増殖・進行を抑えるだけでなく、正常な細胞も攻撃してしまうので、一時的に免疫が落ちる、アレルギー反応や吐き気・嘔吐が現れるなど副作用が生じることがあります。
  • 放射線治療
    「がん」がある場所のみ、ピンポイントで高線量の放射線を照射する治療法です。放射線治療単独ではがんの根治は難しいですが、再発の可能性が高いケースなどで手術後に放射線治療を併用することがあります。また、手術ができないときに、痛みや黄疸などの症状を緩和する目的で行う場合もあります。

よくあるご質問

胆のうがんは、再発しますか?

胆のうがんでは、胆のう内にがんが留まっているステージⅠであれば、胆のうを摘出することで、ほぼ完治します。しかし、ステージⅡ以上では、がんが周辺臓器に広がっているため、手術で取り切ったとしても、剥離面や切離断端などにがんが残ってしまうケースがあり、再発に繋がるケースがあります。ほかに、リンパ節転移、神経周囲や主要血管への浸潤などから再発する可能性があります。

胆のう摘出後の治療フォローとは、どのようなことを行いますか?

定期的に通院していただき、問診や検査(血液検査・超音波検査など)を続けます。検査の頻度は、患者さんのがん進行度・治療法によって個人差があります。規則正しい生活を心がけて、体調の維持・回復を図りましょう。
次のような点に注意して、お過ごしください。


  • 禁煙
  • タンパク質・ビタミン・ミネラルを含んだ、栄養バランスのよい食事
  • 適度な運動
  • ストレスの発散
  • 感染症予防(うがい・手洗い・マスクの着用など)

まとめ

胆のうがんの初期では、自覚症状がないことがほとんどなので、気づいたときには周囲の臓器に広がっているケースも少なくありません。しかし、がんが早期に発見できれば、胆のう摘出手術によって根治が期待できます。
胆のうの異常は、腹部超音波(エコー)検査で発見できるので、日頃から健康診断など定期的な検診を受けたり、気になる症状があった際には一度医療機関を受診したりすることが大切です。なお、黄疸・尿が濃くなる、便が白くなるなど異変がみられる場合には、すぐに医療機関を受診しましょう。

当院では、院長をはじめとする肝臓専門医が複数在籍しているので、胆のう・肝臓・すい臓の疾患に対し、丁寧な診療を行っています。健康診断・人間ドックなどで胆のうの異常を指摘された方は、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医