疾患
disease

皮膚筋炎とは、筋力低下を起こして紅斑(赤い発疹)ができる病気で、自己免疫が自分の細胞を攻撃する「自己免疫疾患」です。子どもや中年女性の発症が多く、今のところ、皮膚筋炎を根治させる治療法は見つかっていないため、国による「指定難病」の対象疾患となっています。

治療では免疫の過剰活動を抑える薬物療法を中心に行い、症状の緩和・改善を図りながら、筋力低下にはリハビリテーション、皮膚症状には紫外線対策を行います。現れる症状や病気の経過には個人差がありますが、病気の進行具合によりADL(日常生活動作)の低下を招いたり、内臓病変の合併では生命に影響を及ぼしたりする恐れがあります。早期発見・早期治療開始が重要であり、定期的な全身状態の観察を必要とする病気です。

皮膚筋炎とは?

皮膚筋炎の類縁疾患に「多発性筋炎」があります。どちらも筋肉障害が起こりますが、皮膚筋炎では皮膚症状を伴い、多発性筋炎では皮膚症状を伴いません。
また、特定疾患の臨床調査個人票の解析によると、皮膚筋炎と多発性筋炎の発症割合はほぼ同じであり、毎年1,000人~2,000人の方が新規に発症していると推測されています。皮膚筋炎と多発性筋炎を合わせた推定患者数は約2万人以上とされ、膠原病の中では関節リウマチ、全身エリテマトーデスにつぐ、第3位の患者数と考えられています。

皮膚筋炎になりやすい人

皮膚筋炎では発症ピークが2回あります。1回目は子どものとき(5歳~9歳頃)に小さなピークがあり、その後50代にかけて2回目の大きなピークがあります。患者さんの男女比は1:3と、他の膠原病同様に女性の発症が多くなっています。なお、特定の遺伝子が原因となって発症する「遺伝病」ではありませんが、「自己免疫疾患になりやすい」という体質は遺伝すると考えられています。

皮膚筋炎の症状

膠原病でもある「皮膚筋炎」では全身に様々な症状が現れますが、中でも「特徴的な皮膚症状」「筋肉障害」「悪性腫瘍を合併しやすいこと」が有名です。ただし、症状の組み合わせや重症度には個人差があります。

皮膚症状

皮膚筋炎では特徴的な赤い発疹(紅斑)が現れて、かゆみを伴う場合が多く、患者さんの約3割にレイノー現象が起こります。また、皮膚症状は紫外線によって悪化するため、日頃から過度に日焼けをしないよう注意が必要です。

  • 紅斑
    • ヘリオトロープ疹
      むくみを伴い、上まぶたに現れる赤紫色の発疹です。名前は紫色の花(ヘリオトロープ)に由来しますが、日本人では紅斑が紫色になることは、ほぼありません。
    • ゴットロン丘疹
      手指の関節の上(甲側)に現れる、カサカサした盛り上がった紅斑です。
    • ゴットロン徴候
      ゴットロン丘疹に似ていますが、手指の関節や肘・膝関節の外側に現れ、盛り上がりのない紅斑です。
    • V徴候
      首~胸にかけてV字に現れる紅斑です。 ショール徴候 肩~背中の上部にかけて現れる紅斑です。
  • レイノー現象(末梢循環障害)
    患者さんの約30%に現れる末梢循環障害です。寒冷刺激や精神的緊張がきっかけとなり、手足の指先に色調変化(白色→紫色→赤色)が起こります。白色や紫色に変化しているときは、しびれ感・冷感・違和感・痛みなどを感じます。ただし、強皮症のように潰瘍(かいよう)になることはほぼありません。予防には指先の保温がおすすめです。

    (図)皮膚筋炎でみられる特徴的な皮膚症状

筋肉障害

筋肉障害はほとんどの患者さんでみられます。身体の中心(胴)に近い筋肉で起こり、徐々に発症する特徴があります。体を動かす筋肉(骨格筋)の低下によって、日常生活動作(ADL)が困難になります。
※筋肉症状が現れず、皮膚症状のみ現れるケースもあります(無筋炎性皮膚筋炎)。

  • 腕の筋力低下
    髪の毛の手入れがしにくい、洗濯物を干しにくい、高いところのものを取りにくい など
  • 太ももの筋力低下
    階段の昇り降りが困難、座った姿勢から立ち上がりにくい など
  • 首の筋力低下
    枕から頭を持ち上げにくい など
  • 喉の筋力低下
    食べ物を飲み込みにくい、むせる、しゃべりにくい、食べ物が誤って気管に入って肺炎を起こす(誤嚥性肺炎) など

臓器病変

全身の臓器に病変がみられますが、中でも「肺疾患」「悪性腫瘍」は生命にかかわる可能性があるため、特に注意したい合併症です。

  • 肺症状
    自己免疫が自分の肺を攻撃することで起こる「間質性肺炎」の合併が約30~40%の方にみられます。主な症状は息切れ・慢性の咳・疲れやすい・階段が昇りづらいなどであり、酷くなると酸素吸入が必要となります。喉の痛みや痰がないのに咳が続いたり、動くと息切れをしたりする様子がみられたら、すみやかに医師までご連絡ください。特に無筋炎性皮膚筋炎では、急速に進行するケースがあるので、すぐに治療を開始する必要があります。
  • 悪性腫瘍
    皮膚筋炎でない方と比べて、がんなどの悪性腫瘍の合併リスクが約3倍高くなっています。病気の経過を左右する大きな要因となるため、積極的にがん検診を行い、優先して治療する必要があります。
  • 関節症状
    肘・膝・手首などの関節に痛み・炎症が起こります。しかし、関節リウマチとは異なり、腫れが長期間続いたり関節破壊や変形が起こったりすることはほぼありません。
  • 心症状
    まれに心臓の筋肉が硬くなって、不整脈・心不全を起こすことがあります。

そのほか、全身症状として発熱・全身倦怠感・食欲不振・体重減少などがみられます。

(図)皮膚筋炎でみられる筋肉症状・臓器病変

皮膚筋炎の原因

皮膚筋炎では自己免疫が筋肉や皮膚を攻撃することで引き起こされていると分かっていますが、「免疫異常」の発症メカニズムについては現在まで明らかになっていません。今のところ、「遺伝的要因」と生まれてからの「環境的要因」が複雑に影響し合って発症していると考えられています。

皮膚筋炎の検査・診断

皮膚筋炎では様々な症状がみられるため、問診・診察・複数の検査方法により症状の評価や臓器病変の有無を確認して、総合的に判断します。

皮膚筋炎の検査

  • 問診・診察
    自覚症状、症状はいつからか、膠原病・自己免疫疾患の家族歴、日常生活での影響具合など詳しくお伺いします。また、紅斑や筋肉について視診・触診します。
  • 血液検査
    別の病気との鑑別、病気の勢いや回復程度の予測などのためにも重要な検査です。
    皮膚筋炎では、筋肉の炎症により組織が破壊されると上昇する「筋原性酵素(クレアチキナーゼ:CPK、アルドラーゼ、ミオグロビンなど)」や、抗ARS抗体(抗Jo-1抗体を含む)・抗MDA5抗体・抗Mi-2抗体・抗TIF1-γ抗体などの「自己抗体」が血中に認められることが多いです。
  • 針筋電図
    筋肉に微量の電流を流して、反応を測定する検査です。筋力低下の原因が神経か、筋肉なのかを調べます。
  • 筋生検
    皮膚を切開して筋肉の一部を取り出し、染色して顕微鏡で細胞を調べる検査です。

そのほか、必要に応じて皮膚生検、MRI検査、心電図、CT検査、肺機能検査などを行います。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介します。

皮膚筋炎の診断

厚生労働省研究班による改訂診断基準(2015年)*1およびヨーロッパリウマチ学会(EULAR)とアメリカリウマチ学会(ACR)の分類(2017年)を基に診断します。主に皮膚症状、筋力低下、血清中の筋原性酵素・自己抗体の有無、肺病変、筋生検・針筋電図結果などから評価され、当院では基準に沿って、総合的に判断しています。
また、重症度は筋力テスト・血液検査・活動性の発疹の有無・合併症の有無などから判断します。
*1(参考)厚生労働省作成 皮膚筋炎診断基準|難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4080

皮膚筋炎の治療

皮膚筋炎の重症度や症状の現れ方には個人差がありますが、治療の基本は患者さんの病状に合わせた薬物療法となります。

薬物療法

ステロイド薬を中心に進め、特に悪性腫瘍を合併した場合は悪性腫瘍の治療を優先して行います。主な薬は次の通りです。

  • 副腎皮質ステロイド
    炎症・免疫の働きを抑える作用があるため、筋肉障害や皮膚症状の改善に効果的です。ただし、多量および長期間服用すると、感染症にかかりやすくなる、骨粗しょう症、食欲増進、高血圧、糖尿病などの副作用がみられることがあるため、当院では効果と副作用のバランスを考えながら処方します。また、皮膚症状だけなら、局所ステロイド薬(軟膏)による治療を優先します。
  • 免疫抑制剤
    過剰な免疫機能を抑えるお薬です。ステロイド薬の効果が不十分、副作用によって使用できない、ステロイドの減量で再燃する(落ち着いていた症状が悪化する)などの場合に併用します。なお、急速進行性の間質性肺炎を合併しているケースには、初期からストロイド薬と併用使用が必要となります。また、感染症にかかりやすくなる、赤血球・白血球などの減少といった副作用がみられます。

リハビリテーション

筋肉の回復には、リハビリテーションや理学療法などが有効です。ただし、筋力低下症状の急性期では、かえって筋肉を傷める可能性があります。筋炎の治療開始時は安静にして、治療によって痛みがなくなり、血中CK値(筋炎の状態を示す値)が正常範囲近くまで落ち着いてきたら、疲れない程度の軽い運動から始めると良いでしょう。

紫外線対策

膠原病で引き起こされる皮膚症状は、紫外線によって症状が悪化することが分かっています。 紫外線の強い夏季は直射日光をできるだけ避ける、外出時には日焼け止めを塗ったり、日傘・帽子を使用したりするなど、紫外線対策が必要です。生活に支障のない範囲で遮光を心がけましょう。

よくあるご質問

皮膚筋炎による筋力低下は、必ず治りますか?

高齢の方を中心に、炎症鎮静化後も筋力が回復しきらないケースは少なくありません。今のところ、筋力回復にはリハビリによる筋力トレーニングしか方法がありません。

皮膚筋炎と診断されました。日常生活で気を付けることは何ですか?
  • 規則正しい生活・栄養バランスの良い食事・十分な睡眠・適度な運動(急性期は除く)・ストレスを溜めない生活を心がける
  • うがい・手洗いなど基本的な感染症対策を行う
  • 薬は決められた量をきちんと服用する
  • 妊娠・出産を希望する場合には、医師に相談する

まとめ

皮膚筋炎には完治させる治療法はありませんが、ステロイド薬など適切な治療を行うことにより、日常生活に復帰できる方が多い病気です。一方で、間質性肺炎・悪性腫瘍など命に関わる合併症を起こしやすい傾向もあるため、発病後も定期的にがん検診や全身状態を確認する検査を行うことが大切です。
当院では患者さんが皮膚筋炎を正しく理解して、病気をコントロールしながら上手に付き合っていけるよう、お手伝いができればと考えています。病気や生活に関して、お困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医