疾患
disease

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、以前は「肺気腫」「慢性気管支炎」の2つに分けられて、別々に呼ばれていましたが、この2つの疾患は、現在はCOPDと統一されています。

慢性的なせきと痰が続くこと、日常生活の階段の上り下りなどで呼吸困難があり、徐々に進行することが特徴です。

40歳以上のおよそ10%程度が患っていると考えられていますが、風邪症状と似ているため、大多数が未受診で未治療といわれています。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは?

主に長期間の喫煙が原因で発症し、呼吸機能が低下していく病気です。
肺の炎症が原因で引き起こされ「肺の生活習慣病」としても注目されています。

40歳以上の約1割がCOPDと推定されていますが、しっかり治療を受けている人は5%程度とかなり低くなっています。
COPDが進行すると、慢性のせきと痰が続くことや息切れや息苦しさが出て、生活の質や運動能力が低下します。

COPDの症状

息切れや息苦しさ

COPDを発症していると、階段や坂道などの普段より少し運動量が多い場面で息切れを感じるようになります。
病気が進行すると、何もしていなくても息苦しさを感じるようになっていきます。

咳と痰

COPDになると咳と痰は長い期間続きます。
ただし、COPDだけにみられるわけではないため、「風邪をひいた」「年齢のせい」と見過ごされがちです。
ただ、症状が進行すると、息苦しさで日常生活に支障をきたす場合や全身疾患につながるケースもあるため、このような症状が出た場合には、早期に病院を受診しましょう。

〈そのほかの具体的な症状〉

  • 軽い運動や階段ですぐに息切れしやすい
  • 1日に何回も咳がでて、それが長く継続する
  • ヒューヒュー・ゼイゼイという呼吸音がする
  • 肺炎にかかりやすくなる
  • 胸の部分がビール樽のように膨らんでいる
  • チアノーゼ(血中酸素濃度が低下して皮膚がどす黒くなる)
  • 体重減少

〈このような症状はありませんか?セルフチェック〉

  1. 少し動くと息切れしやすい
  2. 1日に何度も咳が出る
  3. 呼吸をする時にヒューヒュー・ゼイゼイ音がする
  4. 黄色や粘り気のある痰がでる

このような症状がある場合にはCOPDの可能性があります。
また、長期間たばこを吸っていて、40歳以上の方もCOPDのリスクが高くなります。
かかりつけ医か呼吸器科に受診することをおすすめします。

COPDの全身への影響

COPDは肺に炎症を引き起こす病気ですが、炎症を起こすタンパク質の一種が増加して、全身性の炎症が起きることがあります。

息切れによって運動量が低下して、食事量が減ると筋肉量が減って内臓型肥満などを引き起こします。
また、COPDは長期間の喫煙が引き金になり、40代以上で発症しやすいため、喫煙や加齢に伴う疾患が多くみられます。

また、COPDが肺以外に全身性の炎症を誘発すると考えられていることから、COPDは全身性の疾患として捉えられています。

  • 抑うつ状態
  • 睡眠障害
  • 骨粗鬆症
  • 糖尿病
  • メタボリックシンドローム
  • 胃潰瘍
  • 栄養障害

また、インスリンの抵抗性が見られるため、「糖尿病」「動脈硬化」「心筋梗塞」「脳梗塞」などの疾患のリスクが高まります。
COPDが直接の原因ではありませんが、呼吸器が炎症を引き起こすことによって活動が低下し、全身に悪影響を及ぼし、これらの合併症をもたらします。
そして、さらに全身の状態が悪くなることでほかの機能も悪化するという悪循環を起こします。

COPDの原因

最大の原因は喫煙で、重喫煙者のおよそ15%~20%にCOPDが発症します。
また、家族の人で喫煙者がいる方で受動喫煙でもCOPDが起こることが確認されています。
たばこの煙や有害は物質を吸い込むことで、肺や気管支に炎症が起きます。
この炎症が原因で咳や痰が多く出て、気管支が細くなることで呼吸をした時に息が吐きにくくなります。

また、気管支に枝分かれした「肺胞」といわれる小さな袋が破壊されて、「肺気腫」になることで身体に酸素を取り込んだり、二酸化炭素を排出したりする機能が低下します。

症状は階段や坂道を上がった時に息切れがする、痰か絡みやすく、咳が出るなどの特徴があります。
COPDはこれらの症状が時間の経過で進行していき、治療を行っても肺が元に戻ることはありません。
そのため、できるだけ症状の進行を抑えるように治療をしていきます。
症状が進行すると、自宅の在宅酸素療法で呼吸機能のサポートをします。

COPDの検査

咳や痰が続く、息切れしやすいなどの症状やこれまでの経過からCOPDが疑われる場合には、「呼吸機能検査(スパイメトリー)」が行われます。

検査では、最大の努力をして息を吐いた時の量と吐き出せる量を測定して、呼吸の通り道が狭くなっているかを確認します。

胸部X線検査

進行したCOPDの方のレントゲン写真は、肺が膨張しやすく、横隔膜が通常の位置よりも下がって平らになっています。
また、横から見た肺は樽状になっており、心臓は肺に押されて細長い特徴があります。

胸部CT検査

肺胞はスポンジのような密集した構造をしていますが、COPDの方は肺胞が壊されて粗い構造になります。
そうすると、破壊された部分が黒く映るため、肺が全体的に黒く見えるとCOPDと診断されます。

運動負荷心肺機能検査

ランニングマシンなどで運動の負荷をかけて、「最大酸素摂取量」を測定し、1分間に取り込める酸素を確認します。
そのほかには「心拍数」「呼吸のパターン」「換気量」などの測定を行い、運動が制限されている原因を探します。

パルスオキシメーター

COPDは呼吸がしにくくなり血液中の酸素濃度が低下して、さらに悪化すると二酸化炭素濃度の上昇も見られます。
パルスオキシメーターは指先に挟むだけで簡単に酸素濃度を測定することが可能です。

心電図検査

COPDは心不全や肺高血圧症を合併している場合も多いので、心電図検査も行います。

COPDの治療

生活習慣の改善

COPDの治療で最も大切なのは生活習慣を改善して、体力や病状の悪化を予防して症状が進行しないようにすることです。
そのためには「禁煙」をして呼吸機能の低下を防ぎます。
喫煙を続けていると、呼吸機能の低下が加速するため治療の基本は禁煙になります。
禁煙外来がある病院もありますので、専門家の知識でサポートしてもらいながら禁煙を目標にする方法もあります。

薬物療法

気管支拡張薬や抗炎症薬を吸入して、気管支を広げて呼吸をしやすくする作用によって症状を軽減します。
最近は効果の高い薬が開発されていますが、壊れた肺胞は元には戻らないため、元の健康な状態には戻りません。

そのため、症状を完全に取り除くことはできませんし、薬の服用をやめると症状が出てしまうため、治療を続ける必要があります。

運動療法(呼吸リハビリテーション)

「生活習慣を改善すること」「運動習慣をつけること」「息切れを和らげること」を目標にして専門医や理学療法士・看護師・薬剤師・栄養士と一緒にCOPDが悪化しないためにどうするかを習得していきます。
運動リハビリテーションは、楽しみながら運動を取り入れられるように無理のない計画を立てます。

その時の症状によって、患者さんに合ったリハビリテーションや生活習慣の改善を提案いたします。 具体的には、呼吸筋のストレッチやマッサージ、歩行訓練、日常生活の動作の工夫などを行っていきます。

栄養療法

COPDは肺が膨張して横隔膜が臓器を押し上げて、胃腸も圧迫されてしまいます。
そうすると、食欲低下やお腹の張りを起こしやすくなります。
さらにCOPDの方は食事をすることで呼吸が乱れて息苦しく感じることもあり、このことも食欲低下を招くといわれています。

低栄養になると、痩せるだけでなく筋肉も衰えてしまい、今まで以上に動くと息切れしやすく、疲れやすくなってしまう悪循環になります。

そのため、栄養士と連携して、必要な栄養バランスを摂取できているか確認することが大切です。

在宅酸素療法

COPDが進行すると、肺での酸素の取り込みや二酸化炭素の排出がうまくいかず、慢性的な息苦しさを感じるようになります。

この状態が長時間続くと日常生活の活動が大きく制限されてしまいます。
また、血液中の酸素濃度が低下した状態が続くと心不全や脳梗塞などの疾患を引き起こす可能性も高くなります。
在宅酸素療法は、鼻からチューブを通して機械から送り込まれる酸素を取り込むことができる治療です。
自宅に設置する大きなタンクだけでなく、持ち運びができる小さなタンクもあるため、トイレや入浴時はもちろん、外出時にも使用しながら活動ができるので、活動範囲が大きく広がります。

この治療は医師の指示と処方が必要です。

COPDの予防と注意点

禁煙が大切

COPDの予防は治療と同様に「禁煙」をして、非喫煙者のたばこの煙を避けましょう。
たばこにはニコチンやタールだけでなく、200種類以上の有害な物質が含まれているといわれています。

禁煙をしない限り、肺へのダメージは続いています。
一方、禁煙をすると、咳や痰の症状が出にくくなり、呼吸機能の低下を防ぐことができます。

また、副流煙もたばこを吸っている人以上に有害物質が多く含まれているため、喫煙している方がたばこを吸っている所は避けましょう。

予防接種で悪化を防ぎましょう

感染症になると、COPDは急速に悪化します。
インフルエンザや肺炎球菌の予防接種をきちんと受けましょう。
インフルエンザは毎年摂取することが望ましく、肺炎球菌は5年に1度の摂取が推奨されています。

呼吸筋のトレーニング

肺がふくらみにくくなるため、胸郭が動きやすくするために「腹式呼吸」の練習をします。
お腹で呼吸をすると、息を吸った時にお腹がふくらみ、吐いた時にお腹が凹みます。

仰向けに寝て、お腹に手を当てると分かりやすいです。

体幹の筋力トレーニングも合わせて行います。
日常生活に必要な「立つ」「歩く」の動作がスムーズにできるようにその筋肉のトレーニングを行います。
具体的には、立ち上がりの練習やスクワットを行い筋肉量の向上を目指します。

よくある質問

COPDは何が原因ですか?

長期間の喫煙や粉じん、大気汚染、遺伝的な要素が関係あります。
大きな原因は喫煙といわれ、たばこ病と呼ばれることもあります。

COPDはどのような症状が出ますか?

せきや痰の症状が長く続きます。
そして、日常の簡単な動作でも息切れなどを起こすようになります。
悪化すると酸素を吸入しながら生活する必要があるケースもあります。

COPDは治りますか?

せきや痰などの症状を緩和することはできますが、破壊された肺は元には戻りません。
症状が悪化しないように、生活習慣の改善など対処療法をしていきます。

まとめ

COPDはせきや痰などの風邪症状と間違えられることが多く、適切な治療がされないまま進行してしまうこともある病気です。
たばこを吸っている方で、長期間せきや痰が続く時は1度病院に相談されることをおすすめします。
患者様一人ひとりに合った治療法がありますので、症状の緩和と、COPDが悪化しないようにするための生活習慣などをご一緒にサポートいたしますのでお気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医