疾患
disease

慢性膵炎・膵石

慢性膵炎とは、膵臓の炎症が長く続き、正常な細胞が破壊されて膵臓の機能が低下していく病気です。膵臓の組織が徐々に硬い線維成分に置き換わり、膵臓内に「膵石(すいせき)」と呼ばれる石ができることもあります。

慢性膵炎は40~50代で発症することが多く、たびたび起こる腹痛で日常生活に大きな支障をきたします。また、病気が進行して膵臓の機能が失われると、栄養障害や糖尿病の発症など身体にさまざまな不具合が起こります。
慢性膵炎は発症すると完治することはなく、長期にわたり病気と付き合っていくことになります。
症状の悪化を防ぎ、膵臓の機能を保つためにも、適切な治療で病気を上手くコントロールすることが重要です。

慢性膵炎・膵石とは

膵臓は、みぞおちの奥にある20㎝ほどの横長の臓器で、食物を消化・分解するための膵液(消化酵素*1)を分泌する「外分泌機能」と、血糖値をコントロールするホルモン*2を血液中に分泌する「内分泌機能」という2つの重要な働きを担っています。

*1 でんぷんを分解するアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼ、たんぱく質を分解するトリプシンが含まれる。
*2 膵臓で分泌されるホルモンには血糖値を下げるインスリンと血糖値を上げるグルカゴンがある。

膵炎とは、消化酵素を分泌する「外分泌腺細胞」に炎症が起きる病気です。
通常、膵臓で作られた膵液は、十二指腸に送られて食物の消化を行います。しかし、何らかの原因で膵臓に炎症が起きると、本来、食物の消化に使われるはずの膵液は誤って膵臓自体を消化してしまいます(急性膵炎)。この炎症が繰り返し断続的に起こると、正常な細胞は徐々に破壊されてしまい、壊れた細胞が硬い線維成分に置き換わると慢性膵炎に移行します。
線維化が進むにつれ、膵液の通り道である膵管は部分的に硬く狭くなります。膵液の流れが悪くなることでみぞおちや背中に鈍い痛みが生じるようになり、滞った膵液中のたんぱく質が固まって石ができることもあります(膵石症)。膵臓付近には多くの神経が通っているため、膵石によって膵液の流れがさらに悪化すると激痛が引き起こされるケースもあります。

慢性膵炎は発症後5~10年という長い時間の経過とともに徐々に進行し、膵臓の消化機能が失われてゆくにつれ、深刻な栄養障害(栄養失調や体重減少など)が起こります。
また、膵外分泌細胞以外にも影響が広がり、インスリンの分泌に支障をきたすと、血糖値のコントロールができなくなって糖尿病を発症し、膵臓癌を発症するリスクも上がるため、十分な注意が必要です。

(図)膵臓の構造と慢性膵炎による症状

慢性膵炎の病期と症状の変化

慢性膵炎は、進行過程に伴い、以下の3つの病期に分けられます。
それぞれの病期によって症状にも変化が見られます。

代償期(初期)

慢性膵炎の初期の状態です。代償期のおもな症状は腹痛で、お腹の左上から背中にかけて痛みが出ることが多く、吐き気や嘔吐、腹部膨満感、身体のだるさなどを伴うこともあります。
この時期、まだ膵臓の機能は保たれているため、膵液が分泌されるたびに急性膵炎のような激しい腹痛の発作が起きるのが特徴です。特にお酒を飲んだ後や、脂肪を摂り過ぎた時などは膵液が大量に分泌されるため、腹痛が起こりやすくなります。
※但し、患者さんの中には全く痛みが現れず、無症状のまま進行するケースもあります。

移行期(中間期)

膵炎が進行するにつれて膵臓の機能が徐々に衰えてきます。
分泌される膵液の量が減少するため、腹痛が徐々に軽くなるのが特徴です。

非代償期(後期)

発症から5~10年程度経過し、膵臓の細胞が破壊され、線維化が進んだ状態です。
膵臓の働きが完全に失われると、膵液が分泌されなくなるため腹痛はさらに軽減(もしくは消失)します。しかし、消化機能が落ちることで下痢や油が浮いたような薄黄色のクリーム状の便(脂肪便)が出るようになり、十分な栄養が吸収できなくなるため体重が減少します。
また、次第に内分泌機能にも障害をきたしてインスリンの分泌が低下すると、血糖値のコントロールができなくなって糖尿病を発症します。

慢性膵炎・膵石の分類と原因

慢性膵炎には、飲酒が原因で起こる「アルコール性慢性膵炎」とそれ以外の原因で起こる「非アルコール性慢性膵炎」の大きく2つの種類に分類されます。

アルコール性慢性膵炎

長期間にわたる大量の飲酒が慢性膵炎の最大の原因と言われており、アルコール性慢性膵炎は慢性膵炎全体の70%程度を占めています。特に男性に発症する慢性膵炎の多くは飲酒によるものです。

非アルコール性慢性膵炎

非アルコール性慢性膵炎には、急性膵炎後の変化や胆石症、ストレス、遺伝(家族性)などがあります。最近では喫煙も膵炎の発症や進行のリスクを高めることが分かっています。
遺伝子の異常によって起こる「家族性膵炎」は、若い年齢で発症するケースも多いのが特徴です。
ただし、非アルコール性慢性膵炎の中には、はっきりとした発症原因が分からないケースもあり、女性に発症する慢性膵炎の多くは原因不明の「特発性慢性膵炎」です。

慢性膵炎・膵石の検査

腹痛や背中の痛み、消化不良などの症状から慢性膵炎・膵石の疑いがある場合には、必要に応じて以下のような検査を行います。

  • 血液検査
    採血を行い、膵臓の細胞が破壊されているかを示すアミラーゼの値を調べます。
    また、アルブミンやヘモグロビン、コレステロール値から栄養状態を確認することも可能です。
  • 腹部X線検査
    X線を使用して腹部の画像を撮影します。
    患者さんの身体への負担が少なく、膵石症(膵管内の膵石)の発見に有効です。
  • 腹部超音波検査(US)
    お腹の上から超音波を当て、内臓からはね返ってきた音波を画像化する検査です。
    膵臓の形や大きさ、膵石や嚢胞の有無などを確認することが可能です。
    簡単に行うことができ、身体への負担がないのも大きなメリットですが、胃腸にガスが溜まっていたり、内臓脂肪が多かったりする場合には正確な検査が難しい場合もあります。
  • CT検査
    X線を使用し、体内の輪切りの画像を撮影します。薬剤を静脈に注入してから行う造影CT検査は、より精度の高い検査が可能で、膵臓の大きさや形の確認のほか、周辺の臓器との関連を見ることができます。また、慢性膵炎に合併することが多い膵臓がんの有無を調べることも可能です。
  • MRI(MRCP)検査
    MRI検査は、磁気と電波を使用し、体内の状態を断面像として画像にする検査で、膵胆管MRI検査(MRCP)は主膵管の状態の変化や主膵管から枝分かれした分枝の拡張なども調べることが可能です。また、膵炎によって生じる嚢胞(のうほう:分泌物が溜まった袋状のもの)を見つけることもできることから、進行した慢性膵炎の診断も可能です。
    ※当院ではMRI検査は実施しておりません。検査が必要な場合には、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介いたします。
  • 超音波内視鏡検査(EUS)
    口から内視鏡を入れ、胃や十二指腸から超音波で観察する検査で、膵臓全体や胆管、周囲の臓器の状態などを詳しく調べることができます。CTやMRIでは分からない早期の慢性膵炎による変化を見つけられるのがメリットです。
  • 内視鏡的逆行性胆管膵造影検査(ERCP)
    口から内視鏡を入れて十二指腸まで進め、直接、胆道や膵臓内に細い管(カテーテル)を挿入し、造影剤を注入してからX線撮影を行う検査です。主膵管や分枝膵管を正確に診ることが可能で、早期の病態から進行した慢性膵炎まで診断を行うことが可能です。
    ※入院が必要な検査です。さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介いたします。

慢性膵炎・膵石の治療

慢性膵炎の治療には大きく分けて以下の3つの種類があります。
それぞれの病期と膵臓の機能がどの程度維持されているかにより治療内容が異なります。

生活習慣の改善・食事内容の見直し

慢性膵炎の治療の基本は食事内容の見直しと生活習慣の改善です。
外分泌機能が保たれている代償期は、アルコールや脂肪の多い食品を摂取すると膵液の分泌が増えて腹痛が起こります。発作の頻度が高いほど症状が進行しやすいため、日常的に禁酒と脂肪分の低い食事を心がけて腹痛発作の回数を減らすことが大切です。
また、たばこも症状の進行に大きな影響を及ぼすため禁煙が必須です。
※腹痛の軽減する移行期や非代償期も、禁酒、禁煙、低脂肪食の摂取は継続します。

薬物療法

生活習慣の改善と食事内容の見直しを行っても症状が改善しない場合は薬物療法を行います。
代償期には、痛みを抑える「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」や炎症を抑える「たんぱく分解酵素阻害薬(点滴または内服)」の処方を行います。
一方、移行期や非代償期には分泌される消化酵素が減り、たんぱく質や脂肪の吸収ができなくなるため、「膵消化酵素剤」を服用して下痢や脂肪便などの消化不良による症状を抑えます。
また、糖尿病を合併している場合にはインスリンを補う治療も必要です。

外科治療

膵管が細くなっている場合や、膵管内にできた石が膵液の流れを妨げて腹痛を引き起こしている場合には、外科的な治療を検討します。
病変が小さい、もしくは軽度の場合、内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕術を行いますが、痛みが無くならない場合には手術を検討します。

内視鏡治療

内視鏡を使用し、狭くなった膵管を広げる治療や小さな膵石(5㎜以下)の除去などを行います。

体外衝撃波結石破砕術(ESWL)

専用の機械を使用し、お腹や背中などに衝撃波を当てて膵石を砕く治療です。
石を砕くために何度か治療を繰り返す必要がありますが、メスを使わずに行うことができるので合併症のリスクが比較的低く、外来での治療が可能です。(初回は入院が必要になります)

膵手術

内視鏡治療やESWL治療でも痛みが治まらない場合には手術を検討します。
慢性膵炎の手術には以下のようなものがあります。

  • 膵管ドレナージ手術
    拡張した膵管を切開して腸管と繋ぐ手術です。膵液を腸管に流して膵管内の圧を下げる効果があります。
  • 膵部分切除術
    膵管が狭くなっている部位を切除する手術です。膵管の拡張がない時に行います。
    ※外科的な治療が必要になる場合は、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介いたします。

慢性膵炎の方の食事について

慢性膵炎の患者さんは、糖尿病を合併する場合が多く、カロリー制限が中心と考えられがちですが、進行するにつれて体重が減少するため、必要なカロリーや栄養はしっかり摂る必要があります。食事療法を行う際は、医師や栄養士にアドバイスを受けて適切な体重管理を行うことが大切です。

慢性膵炎の患者さんの食事のポイントは、しっかりと栄養を摂りながらも脂質の摂り過ぎに気を付けることです。脂肪の摂取を控えることにより、腹痛も起こりにくくなることが報告されています。
どのくらいの脂肪を摂取するかは、患者さんの病期や症状の有無によって異なります。
腹痛が起きている時には脂肪の摂取を厳しく制限しますが、症状がない場合は1日40~60g程度の脂肪を摂取することが可能です。(日本人の平均脂肪摂取:55~60g/日)

また、慢性膵炎の方は、膵臓の機能が低下するにつれて消化吸収能力が低下します。
生命維持に必要な必須脂肪酸や脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の吸収も悪くなるため、食事療法を行う際は病状に合わせて、消化酵素薬の内服をしっかりと行っていくことが大切です。
※腹痛発作が強く、食事からの栄養補給が難しい場合には、脂肪を含まない栄養剤などを使用して、膵臓への負担を抑えながらカロリーや栄養分の補給を行います。

よくある質問

慢性膵炎と診断されました。日常生活で気を付けることはありますか?

慢性膵炎は、食事や生活習慣によって症状が強くなったり、病気が進行したりするため、日々の生活を見直し、病気を上手くコントロールすることが必須です。日常生活において以下のようなことに気を付けましょう。


  • 禁酒・禁煙を徹底して行う
  • 脂っこい料理や香辛料の刺激物の摂取を控える
  • 消化の悪い食品は避け、よく噛んでから食べる
  • ストレスを溜めないようにする
  • 規則正しい生活を送る
  • 症状が落ち着いている時でも処方された服薬を守り、定期的に健診を受ける

まとめ

慢性膵炎は一旦発症してしまうと基本的に治ることはありません。
ただし、痛みが出始めた初期に食事や生活を見直し、適切な治療を行うことができれば、進行を抑え、膵臓の機能を保つことは可能です。慢性膵炎に合併することが多い膵がんの発症リスクも下がるため、病気が見つかった時には早期に受診し、根気強く治療を続けましょう。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医