疾患
disease

慢性胃炎(萎縮性胃炎)

慢性胃炎とは、胃の粘膜の炎症が長く続く状態であり、その多くはピロリ菌の感染によって起こるのが特徴です。強い痛みや発熱、出血などを伴う急性胃炎に比べ、慢性胃炎は比較的症状が緩やかで、中には無症状の場合もありますが、炎症が長引いて進行すると、胃の粘膜が萎縮して薄くなり(萎縮性胃炎と言います)、胃がんの発症リスクが高くなるため注意が必要です。

慢性胃炎のおもな症状は、空腹時の胸やけや食後の胃もたれといった胃の不快感ですが、これらの症状は慢性胃炎特有のものではなく、胃潰瘍や胃がんなどの消化器疾患でも起こることがあるため、詳しい胃の検査を受けて正確に診断する必要があります。
痛みや不快感など胃に何らかの症状が続く方は、早期に検査を受けて胃の状態を確認することをおすすめします。

慢性胃炎(萎縮性胃炎)とは

食道と腸をつなぐ胃は「胃袋」とも呼ばれるように、筋肉でできた袋状の臓器であり、食事で摂り込んだ食べ物を消化する重要な働きをしています。
私達の胃の中では、食物を消化するためだけではなく、食べ物と一緒に侵入してくる細菌を退治するために、胃酸や消化酵素を含む大量の「胃液」が分泌されています。また、その一方で、強力な胃酸(pH1~2)から胃粘膜を保護するための「胃粘液」も同時に分泌されるしくみになっており、この胃液と胃粘液のバランスが守られている状態の時は消化が正常に行われ、健康な胃を維持できるようになっています。

胃炎とは、胃粘膜を守る防御機能が落ちて炎症が起きている状態であり、その炎症が長く続くものを「慢性胃炎」と言います。慢性胃炎はゆっくりと進行するため、暴飲暴食などで突発的に起こる急性胃炎ほど劇的に症状が出ることはありません。しかし、長引く炎症で胃液や胃酸を分泌する組織(腺細胞)が減少してしまうと、胃の粘膜が次第に薄くなって萎縮していくのが特徴で、ピンク色だった胃の粘膜が色褪せ、粘膜の下を走る血管が透けて見えるようになる状態を「萎縮性胃炎」と呼びます。

本来、胃には炎症によってできた傷を修復する高い再生能力が備わっていますが、萎縮が進むと正常な上皮(粘膜)が再生できなくなり、「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」という腸の粘膜に似た上皮が形成されるようになります。このように再生された腸上皮仮性の一部が胃がん化するケースがあることから、慢性胃炎の中でも特に腸上皮化生を伴う状態は、がんになる前段階として考えられています。

(図)健康な胃と慢性胃炎(萎縮性胃炎)の比較

慢性胃炎(萎縮性胃炎)の症状

慢性胃炎には以下のような症状があります。ただし、これらの症状は慢性胃炎特有のものではなく、胃潰瘍や胃がんでも現れる症状であるため、鑑別のために詳しい検査が必要になります。
また、症状の強さは、胃粘膜の萎縮の程度とは関係がなく、強い症状が出る方の中には神経症的な傾向(ストレスなどの心因性の問題)が強く見られる場合もあります。
その一方で、胃の粘膜の炎症があるにもかかわらず無症状の場合もあり、人間ドックや健康診断の検査を受けた際に慢性胃炎と診断されるケースも少なくありません。

慢性胃炎のおもな症状 ≫

  • 空腹時や夜間の胸やけ
  • 食後のムカムカ
  • 胃もたれ
  • げっぷ
  • 胃の痛み(チクチクした痛み)
  • 吐き気
  • 腹部膨満感(お腹の張り)
  • 食欲不振

慢性胃炎(萎縮性胃炎)の原因

慢性胃炎の8割は「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」の感染によるものです。ピロリ菌は胃粘膜に生息する細菌であり、感染すると胃粘液の分泌が減少するため、胃の粘膜が傷付いて炎症(胃炎)を起こしやすくなり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、がんなどの原因になることも分かっています。

酸性度の強い胃酸に覆われている胃の中は、本来、細菌が生息できる環境ではありません。
しかし、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を持っており、アルカリ性のアンモニアを作り出すことで自分の周辺の胃酸を中和して生息するのが特徴です。
ピロリ菌の詳しい感染経路はまだ明らかになっていませんが、そのほとんどが免疫機能の不十分な幼児期に、食べ物や不衛生な飲み水を介して感染すると言われています。衛生状態の良い現在の日本で育った若い世代の感染率は低くなっているものの、上下水道などの生活インフラが十分整備されていない時代に幼少期を過ごした60代以上の方では、6割以上がピロリ菌に感染しているとも言われています。

その他、慢性胃炎を引き起こす要因には、加齢や自己免疫性胃炎などが挙げられます。
自己免疫性胃炎は「A型胃炎」とも呼ばれ、その名の通り、自分の免疫が胃の細胞を壊して炎症を起こす病気です。A型胃炎は特殊な胃炎であり、発症頻度は高くありませんが、ピロリ菌感染と同様に胃がんのリスクを上げるほか、貧血や自己免疫性疾患(甲状腺機能症もしくは亢進症など)などを伴うのが特徴です。

(図)ピロリ菌イメージ

慢性胃炎(萎縮性胃炎)の検査

慢性胃炎(萎縮性胃炎)の診断には詳しい問診で自覚症状の有無や生活習慣、内服薬の有無などをお伺いするとともに、以下のような検査を行います。

胃部X線検査

造影剤(バリウム)を飲み、X線を照射して胃の中の状態を調べる検査です。バリウムを飲んだ状態で身体を動かすと、バリウムが胃壁にくっついて胃壁の凹凸や潰瘍の有無などを確認することが可能です。

胃部内視鏡検査(胃カメラ)

口や鼻から胃の内部に小型の内視鏡を入れ、胃粘膜の状態や色調などを詳しく観察する検査です。萎縮状態が軽い場合、粘膜は赤く見えますが、萎縮がさらに進行すると色が失われて粘膜の下にある層の血管が透けて見えるようになります。
当院の内視鏡検査は、波長の短い光を照射する「NBI内視鏡システム」を搭載しているのが特徴です。青や緑などの短い波長の光は消化器の粘膜表層の血管を鮮やかに浮かび上がらせる性質があるため、早期の胃がんなどの小さな病変を見つけることができるのが大きなメリットで、より精度の高い診断が可能です。

病理組織検査(生検)

内視鏡検査の際、何らかの変化が認められた場合には、胃の粘膜の一部を採取して、顕微鏡での観察を行います。粘膜の表面には神経がないため、生検による痛みはありません。
病理検査では、胃がんの有無やピロリ菌感染の有無、萎縮の程度や腸上皮化性変化(腸のような上皮が再生されること)などを調べることが可能です。

ピロリ菌検査

ピロリ菌の有無を調べる検査です。内視鏡検査による生検で行う方法もありますが、細菌の有無だけを調べる場合は内視鏡を使用しない方法もあります。

  • 迅速ウレアーゼ試験
    内視鏡で胃粘膜を採取し、特殊な液につけてピロリ菌感染の有無を調べます。
  • 組織鏡検法
    内視鏡で胃粘膜を採取して染色し、顕微鏡でピロリ菌感染の有無を調べます。
  • 培養法
    内視鏡で胃粘膜を採取し、培養してピロリ菌感染の有無を調べます。
  • 抗体検査
    尿や血液を採取し、ピロリ菌に対する抗体の有無を調べる検査です。
  • 尿素呼気試験(UBT)
    尿素を含む検査薬を服用し、一定時間経過後に吐き出した呼気の二酸化炭素量を調べます。
    ピロリ菌検査の中で最も信頼性が高いとされている検査です。
  • 便中抗原測定
    便を採取し、ピロリ菌に対する抗体の有無を調べる検査です。

※ピロリ菌検査の詳しい情報についてはこちらをご覧ください。

慢性胃炎(萎縮性胃炎)の治療

検査の結果、ピロリ菌の感染が見つかった場合には、ピロリ菌を殺すための「除菌治療」を行います。ピロリ菌感染以外による慢性胃炎(萎縮性胃炎)の場合は、患者さまの状態の種類や程度に合わせ、症状を和らげるための薬物治療を行います。

ピロリ菌の除菌治療

慢性胃炎の原因がピロリ菌によるものである場合には、ピロリ菌の除菌治療を行います。
2種類の抗生物質(除菌剤)と胃の炎症を抑える薬剤(胃酸分泌抑制剤:PPI)を朝晩1日2回、7日間服用し、治療終了から4週間後以降に除菌効果の判定を行います。
1回目の治療(1次除菌)での成功率は75%程度、2回目の治療(2次除菌)は90%程度で、ほとんどの方が2回の治療でピロリ菌の除菌に成功しています。
なお、ピロリ菌除菌治療は、内視鏡検査で慢性胃炎と診断されている場合、2回まで保険診療が認められています。

薬物療法(※自覚症状がある場合のみ)

患者さまの状態に合わせ、以下のような薬剤を単独または組み合わせて服用します。
なお、慢性胃炎と診断されても特別な症状がない場合、治療は行わずに経過観察となります。

  • 胃酸の分泌を抑える薬(胃酸分泌抑制剤)
  • 胃粘膜の防御機能を高める薬(胃粘膜保護剤)
  • 消化管の働きを良くする薬(運動機能調整剤)
  • 漢方薬

日常生活の注意

慢性胃炎(萎縮性胃炎)の改善には、治療だけでなく、日頃の生活習慣の見直しも不可欠です。つらい症状の改善はもちろん、再発予防のためにも以下のようなことに気を付けましょう。

  • 暴飲暴食を避ける
  • コーヒーや香辛料などの刺激物を控える
  • 飲酒を控える
  • 禁煙
  • ストレスを溜めない(適度なストレス解消を心がける)

よくある質問

慢性胃炎の場合、どのような食事を摂れば良いでしょうか?

胃の粘膜の刺激になるもの(辛い・脂っぽい・酸っぱい・甘い・硬いなど)を避け、胃に優しいものを摂ることを心がけましょう。また、早食いになると消化が悪くなります。食事を摂る時は、食べ過ぎに気を付けて、ゆっくりとよく噛んで食べることも大切です。


≪おすすめの食材≫

お粥、柔らかめに炊いたご飯、パン(柔らかいもの)、うどん、牛乳、ヨーグルト、卵の黄身、豆腐、煮た野菜、白身魚など

≪避けたほうが良い食材≫

揚げ物、冷ごはん、漬物、梅干し、甘いもの(チョコレートなど)、かんきつ類、アルコール、ブラックコーヒー、紅茶、緑茶、スパイス類、温度差の多い食品(冷たすぎる、熱すぎるなど)

ピロリ菌の除菌治療を受けましたが、再感染のリスクはありますか?

一度除菌をした後、ピロリ菌に再感染する確率は2~3%程度と言われています。 ピロリ菌は免疫機能がまだ確立されていない幼少時に感染したものが持続すると考えられており、成人になってピロリ菌に接したとしても感染が持続することはほとんどありませんので、再感染のリスクはほぼないと考えて良いでしょう。
ただし、除菌治療をしても確認のための検査を受けていない方や、除菌治療後一旦は陰性になっても、稀にわずかな菌が生き残り、時間の経過とともに再度増殖する可能性はあるため、除菌後も症状が続くような場合には注意が必要です。また、ピロリ菌の除去に成功した場合でも胃がんの発症リスクが無くなるわけではありませんので、年に一度は定期的に内視鏡検査を受けておくことが大切です。

まとめ

慢性胃炎による萎縮は加齢などでも進行していくことから、完全に元の状態に戻すことは難しいですが、早期にピロリ菌の除菌を行い、胃粘膜の炎症の進行を抑えることで、将来、胃潰瘍や胃がんを発症するリスクを下げることは可能です。
胃の不快感が続いている方や、健康診断などで慢性胃炎(萎縮性胃炎)を指摘された方などは、ピロリ菌の感染を疑い、是非一度詳しい検査を受けることをおすすめします。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医