疾患
disease

慢性胆のう炎

慢性胆のう炎とは、胆のうの炎症が繰り返し起こることにより、胆のう壁が厚くなり、胆のうが萎縮して機能低下する病気です。慢性胆のう炎の多くは「胆のう結石(胆石:たんせき)がある」「過去に急性胆のう炎になったことがある人」に発症します。

慢性胆のう炎では、急性胆のう炎で現れるような右みぞおちの痛みや黄疸などの症状は軽度で、自覚症状なく経過するケースもあります。「強い症状がある」「胆のうがんとの鑑別が難しい」場合では外科的手術が必要となりますが、無症状や軽症であれば積極的治療は不要です。
とはいえ、慢性胆のう炎は「胆のうがん」を誘発する可能性があるため、定期的に経過を観察していくことが大切です。
人間ドック・健康診断などで「胆石」「胆のうの腫れ」を指摘された方は、お気軽にご来院ください。

胆のうとは?

胆のうとは、肝臓と十二指腸を繋ぐ管(胆管)の途中にある、袋状の形をした臓器です。
肝臓で作られた胆汁(たんじゅう)を一時的に50~60ml程度蓄え、濃縮しています。脂肪分の多い食事を摂った際に、この胆汁を十二指腸に送り出すことで、油脂の分解を助け、効率よく摂取できるようになります。

(図)胆のうの位置

慢性胆のう炎の原因

慢性胆のう炎の原因は、胆のうの炎症が長期間起こることです。
胆のうの炎症が長期化する要因には、次の2つの要素があります。

  • 胆石*1がある
    胆石はコレステロールの増加によって発生します。成人の約10%に胆石があるとされていますが、中でも「胆のう結石」は、急性胆のう炎の原因の約90%を占めます。
    *1胆石:胆のうや胆管にできる結石。できた部位によって「胆のう結石」「総胆管結石」など名称が異なるが、胆石のほとんどは「胆のう結石」です。
  • 急性胆のう炎になったことがある
    急性胆のう炎に罹患した際、胆のう摘出をせずに保存的治療のみ行った方の約20~40%に再発がみられるという報告があります。

胆のうに胆石があることで、胆のう壁は常に刺激を受けるので、軽い炎症が繰り返し起こります。次第に胆のう壁が厚くなって萎縮することで、機能低下が起こります。
また、細菌感染によって、胆のうが萎縮して胆のう壁が厚くなることもあります。
慢性胆のう炎が進行すると、胆のう壁が石灰化することもあり(磁器様胆のう)、胆のうがんの合併リスクが高まります。

慢性胆のう炎の症状

慢性胆のう炎では、次のような症状が現れます。
ただし、急性胆のう炎と異なり、症状の程度は「軽度」です。圧痛(押すと痛むこと)もほとんどなく、無症状で経過する場合もあります。

  • 右季肋部痛(みぎきろくぶつう:右のみぞおちの痛み)
  • 上腹部の不快感・鈍痛
  • 腹部膨満感
  • 黄疸
    ※いずれの症状もさほど長引きません。

慢性胆のう炎の検査・診断

慢性胆のう炎では、次のような検査を行います。

慢性胆のう炎の検査

  • 問診
    自覚症状や身体診察などを行います。
  • 画像検査
    腹部超音波検査(エコー検査)
    お腹にゼリーを塗って超音波プローブを当てて、胆のう壁の肥厚、胆石の存在などを確認します。
(画像)当院の超音波検査機

腹部CT検査

CTとはComputed Tomographyの略で「コンピュータ断層撮影」のことです。
CT検査は胆のう壁の断裂の描出に優れており、胆のう周囲への炎症の波及も確認できるため、超音波検査で病変部が分かりづらい、悪性腫瘍(胆のうがん)が疑われる場合に行うことがあります。
当院のCT装置には、最大50%のノイズ低減処理(被ばく低減再構成)と、患者さんの体形に合わせて最適線量を自動調整する機能が搭載されています。
※当院のCT検査の詳しい内容は、「CT精密検査ページ」にて説明しています。
  https://www.seimitsu-ct.com/

  • 血液検査
    血液中の炎症反応や肝機能を調べます。慢性胆のう炎では通常異常を認めませんが、他の病気との鑑別のために行う場合があります。

そのほか、CT検査同様に、胆のうの腫れ・胆のう管内の結石の有無などを調べるために「腹部MRI検査」を行う場合があります。
※MRI検査(MRCP検査)が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

慢性胆のう炎の診断
血液検査・画像検査などから他の病気が確認できず、画像検査により「胆石の存在」「胆のう壁の肥厚」を確認できた場合には、「慢性胆のう炎」と診断します。

慢性胆のう炎の治療

慢性胆のう炎は「痛みなどの症状が強い」「胆のうがんの疑いがある」ケースでは治療を必要とします。通常、症状がなければ、積極的治療は不要です。

経過観察・定期検診
慢性胆のう炎があっても、自覚症状がなく、胆のうがんが疑われないケースでは、定期的に超音波検査などの検診を行いながらの経過観察とします。

胆のう摘出手術
痛みなどの症状が強い、胆のうがんの疑いがある場合には、「胆のうの摘出手術」を行います。胆のうを摘出することで、症状の再発・胆道系合併症の予防になります。
※胆のう摘出手術が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

  • 腹腔鏡下胆嚢摘出術
    現在、小さい穴から治療が可能な「腹腔鏡下手術」が治療の第一選択となっています。腹腔鏡下胆のう摘出手術は、日帰りもしくは1泊程度の入院で実施し、手術時間は1時間~2時間程度です。ただし、胆のうがんを合併するなど一部のケースでは、開腹手術となることがあります。
  • 開腹胆のう摘出術
    原則的に胆のう摘出は腹腔鏡下で行いますが、出血量が多い、周辺臓器が傷ついたときなど、場合によって開腹手術に切り替える場合があります。(数%程度)

よくあるご質問

健康診断・人間ドックで「胆のうの腫れ」「胆石」の指摘を受けました。特に症状がないのですが、病院を受診しないといけませんか?

健康診断・人間ドックなどで「胆のうの腫れ」「胆石がある」と指摘された場合には、念のため、一度ご受診ください。胆のう壁の肥厚は、「胆のうがん」でもみられる所見なので鑑別が必要です。
診断後も胆のうに変化がないか、定期的に画像検査にて確認していきます。

胆石や胆のう炎の予防法を教えてください。

次のようなポイントに注意すると良いでしょう。

  • 適正体重を心がける
  • 血中コレステロールや中性脂肪が高いと、胆汁内のコレステロール濃度が上昇して、胆石ができやすくなります。適正体重を心がけることで、脂質異常や生活習慣病の予防に繋がり、胆石・胆のう炎の発症リスクを抑えます。
    また、40代~50代の女性では、女性ホルモンの低下に伴い血中コレステロールが増加するため、胆石ができやすい傾向があります。

  • 規則正しい食生活にする
  • 食事時間の間隔が空きすぎると、胆汁の濃縮が起こり、胆石ができやすくなります。1日3食、栄養バランスの良い食事をするようにしましょう。

  • 脂肪分の多い食事(食品)を控える
  • 高脂質や高コレステロールな食事は、胆石を発生させる原因となります。
    揚げ物・お肉・ファーストフード・洋菓子などは、摂りすぎに注意しましょう。

  • 暴飲暴食や過度なアルコール摂取はやめる
  • たくさん食べたり飲んだりすると、消化のための胆汁がより多く必要となり、胆のう・胆管に負担がかかってしまいます。食事はゆっくりよく噛んで、腹八分目を心がけましょう。
    また、アルコール摂取でも胆汁の濃縮が起こり、胆石発生リスクを高めます。
    お酒はほどほどにして、飲み過ぎないようにしましょう。


    まとめ

    「慢性胆のう炎」の発症には「胆のう結石(胆石)の存在」、「急性胆のう炎になったことがある」といった要素が深く関係しています。胆石はコレステロールが多いとできやすくなり、近年の食文化の欧米化に伴い、成人の約10人に1人は胆石があると言われています。胆石があっても約8割は無症状であり、必ず急性胆のう炎を発症するわけではないため、症状がなければ積極的な治療は必要ありません。しかし、定期的に超音波検査など検診を受けて、胆のうの状態を経過観察することは大切です。
    健康診断や人間ドックで「胆のうの腫れ」「胆石」といった指摘を受けた場合には、一度ご受診ください。また、食後の右みぞおち鈍痛、腹部膨満感、黄疸(皮膚・白目が黄色っぽくなる)がある方は、すみやかにご受診ください。

    記事執筆者

    しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

    出身大学

    獨協医科大学 卒業(平成11年)

    職歴・現職

    獨協医科大学病院 消化器内科入局
    佐野市民病院 内科 医師
    獨協医科大学 消化器内科 助手
    佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
    さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
    さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
    しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

    専門医 資格

    日本内科学会認定内科医
    日本肝臓学会認定肝臓専門医
    日本医師会認定産業医